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『狙撃手』

2013年5月 3日 (金)

『狙撃手』20話~21話 感想


 相当長い間ご無沙汰していました。身辺は相変わらず忙しいのですが、これから少しづつでも再開していきたいです。

 というわけで、あらすじを書いてから数か月たちましたが、20話~21話の感想です。20話~21話のあらすじはこちら



 今回は石頭や芥川にも注目すべき点がありましたが、なんと言っても今回は文軒回でした。

 

 前回、竜紹鉄が妻・蘇雲暁を救ってくれたことで、両者の間のわだかまりはすっかり溶けたよう。

 しかしだからと言って、表面上は何も変わったように見えない。文軒はあいかわらず国民党と国に忠誠を誓う軍統としての立場を貫き、もしひとたび竜紹鉄に裏切り行為があれば、必ず彼を殺すと心に決めている。

 一方、自由に生き、自らの信じる抗日のあり方のままに闘おうとする竜紹鉄は、どうしたって軍統としての文軒の束縛を拒絶するしかない。

 しかし、互いに決して相容れぬ立場ながら二人の間にはもう憎悪はなく、己の道を大事にするのと同じように相手の立場を尊重する。そのためにもし殺し合いになることになってもそこに憎悪はないでしょう。




文軒の決意


 さて、国民党とその国家に忠誠を尽くすこと、それが何よりも最優先、と言うかそれ以外はすべて切り捨てて生きてきた文軒であったが、それでもどこまでも捨てていったように見えて捨てきれない個=私人として苦しみもがく己はやはり残ってしまった。しかも最愛の妻が害され、竜紹鉄と認め合ったことで公人の仮面の下にあった私人としての弱く苦しみ悩む個としての自分をもう隠し切れなくなっているようだ。

 それでもひたすら無私の精神で党と国に尽くしてきたのもまぎれもない「自分」。その人生を捨てることも否定することもできない。


 今回の文軒は不器用ながらも公人としての自分と私人としての自分を一体化しようとしているようだ。

 妻を害した日本軍への夫としての復讐心、そして通共の疑いがある竜紹鉄を戦場に行かせてはいけないという軍統上部の命令とそれでも戦いに行きたがる竜紹鉄を守りたいという個人的な願いをすべて実現するため、文軒は自分が竜紹鉄の代わりに芥川との決戦に赴くという道を選ぶ。

 その選択を公言した時、多くの者が軍統として竜紹鉄を抑圧し続けようとしているのだと解釈されても。そして段旅長だけは「妻の復讐を果たそうとしている」ことを指摘されると軍人としての自分への侮辱だと憤る。それは公人としての自己と私人としての自己をすり合わせようとしていることに無自覚なのか、自覚しつつもまだそれを受け入れることができないのか、それともあくまで「冷酷無比な軍統」として扱われようとうる文軒の最後の意地なのか。

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段旅長(正面)に自分の銃の腕前を披露する文軒(右後)




 文軒はこの他にももう一度、竜紹鉄に代わって戦いに赴くことになる。彼が負傷し意識の無い間に蘇雲暁が日本軍支配下の県城に向かったと聞き、重傷の身を押して追いかける。途中、やはり蘇雲暁を追う竜紹鉄と会い、彼のケガを心配した竜紹鉄から自分が彼女を助けに行く、と言われても、「これは彼女の夫である自分の役目だ」と譲らない。そこにいるのは誰でも無いひたすら蘇雲暁を愛する一人の男だと理解した竜紹鉄は自分の馬を文軒にゆずり彼を先にいかせるのだった。





残酷な戦場シーン再び

 21話ではこのドラマの特徴でもある残酷さにおいて迫真の戦場シーンが再び見ることができた。反戦をテーマにした監督の戦場描写に「容赦」や「ロマン」なんて持ち込まない心意気がここでも発揮されている。

 例えば脚を吹き飛ばされて苦しみ叫びながら地面をのたうち回る仲間を助けに行く兵士、しかし彼も容赦なく蜂の巣にされて倒れる。(そして白兵戦にあいては銃剣で刺し殺すよりも銃床で敵の頭を強打した方が殺しやすいという描写も健在)

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脚を吹き飛ばされた仲間を助けに行って撃たれる兵士

  いつも冷静な文軒が悪鬼のような表情で血まみれになりながら日本軍と戦うシーンは必見。

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 特にひどかったのが、石頭が捕虜になるシーン。あくまで抵抗を続けよとする石頭に対し、芥川はまず手りゅう弾を持った右手を撃ちぬき、それでも石頭が口ともう左手で手りゅう弾を投げようとするとそのもう一方の立ち上がろうとするともう左手も撃ちぬく。それでも石頭が立ち上がって向かってこようとすると右足を打ち抜いてとうとう石頭の抵抗を打ち砕く。

 そばで見ていた岡崎も眉をひそめるような実に痛ましいシーンであった。

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漢奸の理由

 ドラマもラストに近づき、「段旅の軍事機密を漏らし多大な損害を与えていたのは誰か」と「竜紹鉄の危機に現れ救ってくれる謎の狙撃手は誰か」という残っていた謎も解けた。

 その正体はどちらも文軒の妻で同じく軍統の蘇雲暁だった。彼女は4年前に村が日本軍に襲われた時に父母と弟と家族の全員を日本軍に人質にとられ、文軒に近づいて情報を送るよう迫られていたのだ。芥川がたびたび「私は中国人というものをよく理解している。このスパイは決して我々を裏切らない」とそうまで確信していたのは、彼が中国人にとって家族の絆がどれほど重いものか理解していたということなのだろう。

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長年人質になっていた蘇雲暁の家族


 そしてその通り、蘇雲暁は機密情報を送り続け、その結果段旅には多大な犠牲が発生した。犠牲者の規模を考えれば彼女のやったことは決して許されるべきことでもない。そもそもたいした犠牲が出なくても日本軍に中国側の情報を漏えいするなどまぎれもない「漢奸」(侵略者に協力する中国人のこと。民族の裏切りものとしてしばしば侵略者そのものより激しい憎悪を抱かれる)だ。


 だが、ドラマはあえて彼女を同情的に描く。「家族を人質にとらえていた」という彼女が裏切り行為をしてしまうのも仕方がないという理由づけもしてくれた。また、この謎が明かされるまでも彼女はたびたび自傷行為をしたり悪夢にうなさられたり「私は悪魔だ」ともらしている場面を描き、彼女がどれほど苦しんでいたかを強調する。ノベライズ小説の方では九児が「でも家族を人質にとらえていたんでしょ」と弁護するセリフまである。

 蘇雲暁が竜紹鉄を危機に陥れるような情報漏えいを行いながら、正体を隠した謎の狙撃手として竜紹鉄を救いに来るのも、せめてもの罪滅ぼしと愛する男を守りたいという一人の女としての思いだったようだ。ここにも戦争の中で自分として生きられず、望まぬ罪を犯し続けるしかなかった人間がいた。

 

 日本においては抗日ドラマにおける日本兵の描き方がステレオタイプだという批判が多い。だが本当にステレオタイプなのは実は漢奸の描き方なのだ。利己的で狡猾で金と自分の利益のためなら同胞を売ることに何の痛痒も感じない悪の権化、最後は自業自得で死ぬ。

 だが2009年に作られたこのドラマではそんな漢奸像とは別の姿を描いた。やむにやまれぬ理由があり(=それは彼女にそんなことを強いた者たちにこそ怒らなければならないということ)、すさまじい苦痛があった。まだまだ粗は多いものの、このドラマの漢奸像は注目に値すると思う。




芥川の憎悪

 これまで狙撃手としての誇りを持ち、戦闘能力の無い新兵などは狙うことの無かった芥川。しかし4人いる弟のうち3人はすでに戦死し、残っていた最後の末弟の戦死の知らせが彼を一変させた。

 「自分の敵はシナの豚どもだ」と訓練中の新兵を狙い、逃げ出した者まで背後から打ち殺す。そのことを岡崎に「大佐、大佐は狙撃手は殺戮者ではない、と言っていたではないですか?」ととがめられると、逆に殴って彼を黙らせる。

 弟を中国軍に殺された芥川が憎悪に憑りつかれ、それまでの狙撃手として守ってきたプライドも自分で自分に対してかしていた規律もすべて放棄してしまったようだ。この変化を芥川役の矢野浩二が実にうまく演じている。

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矢野浩二の好演

 その姿は確かに痛ましい。そして冷血漢と呼ばれる彼が失った弟にいかに深い愛情を抱いていたかが実によくわかる。しかも芥川は弟に「天皇陛下のために努力するよう」という手紙を送り弟が軍人として活躍することに期待していた。あのような手紙を送ったり、そもそも弟が軍人になることを止めていれば、最後の一人まで失うことはなかったかもしれない。

 彼が中国人にぶつける憎悪にはそんな自分を自分を責める気持ちを転嫁しているようにさえ見える。


 監督はこの芥川の憎悪とその源泉である悲しみの深さを描くことで何を訴えたかったのか? それは日本の軍人である芥川もまた人間の心を持った存在であり、大事な人を失って狂ったという点において彼もまた戦争の犠牲者の一人である、ということを描きたかったのではないかと思う。

 そういう描き方自体は特に間違ってはいない。だが、日本人がこのドラマを受け取る時、芥川のこの嘆きと憎しみを「戦争というものの犠牲者」とだけ受け取っていいのだろうか?



 端的に行って、この芥川のおかげでどれだけの中国人が死に追いやられてきたか? 彼は無駄な殺しはしてこなかったが、逆に言えば日本軍の勝利のために必要があればなんでもやる人間であった。彼は日本軍の中で一匹狼ではあったが、日本の侵略行為になんお疑問も持っていなかったし、そのために自分の力を最大限に提供してきた。その結果、多くの被侵略国の人間が謂われなく死に追いやられてきたのである(そして彼のその信念は彼のすべての弟の命さえ奪うことになったのである)

 確かに個人にとってある人物の命は因果関係もなにもすべて超えたところで唯一絶対のものであることはある。だからといって、弟が中国軍との戦闘で死んだことをもって芥川個人とその背後にある日本軍の侵略行為すべてを棚上げして「彼もまた戦争の犠牲者の一人」としてとらえてしまうことはやってはいけないのである。

 


おまけ:文軒って黄埔生だったのか!

 

なんか20話で文軒があの黄埔軍校の6期生で、蒋介石校長に褒められたほどの狙撃の名手であったことが唐突に明かされた!

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 6期と言えばすでに共産党を排除して蒋介石が排他的に軍校を支配して徹底的な反共教育と自身への忠誠を要求していた時代。なるほど、ちょうどその頃に学生(しかも優等生)もだった文軒がああまで党と国に忠誠を誓い、部屋には蒋介石の肖像画があるのもそえなら納得だ。って設定細かいな!

 



歴史解説:黄埔軍校

 革命勢力には独自の軍隊が必要と考えた孫文が1923年、広東省広州に設立した中国初の近代的な士官養成学校。蒋介石が校長で、当初は国共合作で共産党もともに運営を担ったが、1927年の上海反共クーデーター以降、黄埔も徹底的に共産党員を排除し反共教育を行った。ここを卒業した生徒は蒋介石の元で軍の要職についたが、共産党の重要な軍人もここの出身者が多い(十台元帥のうち4人がここの卒業生または教官であった)。

 

2012年12月16日 (日)

『狙撃手』20話~21話 あらすじ

※画像為しバージョンに画像をつけました



20話 あらすじ

 芥川の襲撃の被害に怒りを募らせる竜紹鉄。しかも芥川は岡崎を伴って今度は新兵たちを襲う。竜紹鉄は殺戮の現場に駆けつけ、狙撃戦の果てに芥川を撃退する。

 大野は芥川の復讐心に理解を示しつつも勝手な行動を諌める。
 
  竜紹鉄は部隊を率いて芥川を討ちに行こうとするが、文軒に止められてしまう。

  文軒の元には大野連隊内部のスパイから芥川の行動情報が届く。段之凡旅長は文軒が蘇雲暁の受難のために判断力が曇っていると指摘し、また芥川を討つためには竜紹鉄に自由な行動をさせるよう主張する。文軒は自分は公私混同はしないと反論し、重慶方面が神経を尖らせている今、段旅のためにも竜紹鉄の軟禁を解くわけにはいかないと言う

 段旅長は状況を打開するため文軒を拘束しようとするが、文軒は黄埔軍校で学んだ射撃術を披露して兵士たちを圧倒する。段旅長はそんな文軒に敬意を表し、矛を納める。

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※射撃の腕を披露し、段旅長の前に電燈を落下させる文軒

 文軒は自分が竜紹鉄の代わりに部隊を率いて芥川を討ちに行くことを決意する。

 文軒は自ら連れて行く兵士を選び、石頭もその一人に加えた。しかし、兵士たちは一度も部隊を率いたことの無い文軒の指揮に不安と不信を抱く。特に石頭は長い間竜紹鉄と対立していた文軒が自分を選んだのは何か裏があるのではないかと考え、竜紹鉄に行きたくないと訴えるが、老兵としてそんなわがままは許されない、と叱られる。

 文軒は黙っていたが、蘇雲暁は今度の任務に夫が出ることを悟り、泣いて引き止める。文軒は蘇雲暁を慰め、彼女が眠っている間に出発する。

 竜紹鉄は石頭に特別に無線機を渡し、危機に陥った時は連絡をくれればいつでも助けに駆けつける、と約束し石頭を安心させる。

 大野連隊では大野が芥川にこの前は言いすぎたと謝罪する。芥川は、確かな情報として今度の任務に竜紹鉄が出てくることを伝え、大野は芥川をサポートするため段旅の援軍を牽制することにする。

 翌朝、任務に出発する石頭を見送る竜紹鉄。しかし一人になるとどうしても落ち着かず、自分も彼らの元へ行かせてほしい、と段旅長に頼む。それに対して段旅長は、竜紹鉄は石頭のことを心配しすぎであり、いつまでも過保護では石頭のことをダメにしてしまう、と指摘する。そこに段旅に向かって大野連隊の侵攻が始まり、竜紹鉄は応戦に出なければなくなる。

 部隊を率いて目的地に向かう文軒だが、あいかわらず石頭やその友人の趙玉香など兵士たちの不信は大きい。

 ちょうど他の任務で移動中だった大春の部隊は、しげみの中からその様子を目撃し、竜紹鉄ではなく文軒が部隊を率いていることを不思議に思う。大春と九児はトイレのため隊列を離れた石頭をしげみに引き込み、竜紹鉄が軟禁状態にあることを知る。

 文軒は石頭が八路軍と話していることに気づき、連れ戻しに来る。大春は、今回の作戦に八路軍も協力させてほしいと申し出るが、文軒は冷たく拒絶する。

 部隊を率いて文軒の後を追う芥川の前には蘇雲暁が現れる。蘇雲暁は芥川に戻るように命じるが、芥川は意に介さず前進する。蘇雲暁は彼らを銃撃し、蘇と芥川の部隊は交戦状態となる。

 目的地に着いた文軒は兵士達に待機を命じ、竜紹鉄のやり方を知る石頭は塹壕を掘ったほうが良いのではないか、と指摘するが却下されてしまう。

 緊張が解けない趙玉香はどうすればそう落ち着いていられるのか石頭に尋ねる。そこに文軒が現れ、石頭と二人で話をすることに。

 文軒に戦争が終わったらどうするつもりかと尋ねられ、石頭は竜紹鉄について段旅に留まりたいと言う。文軒は笑って、それもまたいいことだと言い、石頭は意外な思いに囚われる。

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※石頭と語り合う文軒



 一人奮戦し、芥川の部隊を引き止める蘇雲暁。しかし、ついに足を撃たれ戦闘不能になる。岡崎らはそれ以上彼女にかまわず部隊を前進させる。




21話あらすじ


 段旅に侵攻してきた大野の部隊を陣地で食い止める竜紹鉄銭国良方儀球。しかし、竜紹鉄はこの攻撃の意味をはかりかねる。

 一方、芥川率いる日本軍石頭たちへの包囲を完成させ、趙玉香は撃たれて死ぬ。応戦する文軒らだが、すでに状況は圧倒的に不利になっていた。

 石頭からの無線を聞いた竜紹鉄はすぐに現場へと向かい、途中で大春らとも合流する。

 日本軍の圧倒的な攻撃の前に一人また一人凄惨とな戦死を遂げていく兵士たち。芥川は指揮をしているのが竜紹鉄で無いことに気づき、段旅に放っていたスパイが自分を騙したことを悟る。

 文軒は最後を悟り、兵士達に謝罪を叫んで白兵戦を仕かける。

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※白兵戦で奮戦するも撃たれてしまう文軒

日本軍・段旅入り乱れての悲惨な白兵戦の中で、文軒は全身に傷を負いながら奮戦し、最後に日本兵を道連れに崖を落ちる。

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※最後の力を振り絞って立ち向かう文軒

 なんとか這って現場まで着いた蘇雲暁は、文軒が崖を落ちていくところを目撃し、その場で気を失う。

 最後まで生き残り抵抗を続ける石頭であったが、芥川に四肢を打ち抜かれ捕虜となってしまう。

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※四肢を撃たれながらも起き上がろうとする石頭



 すでに日本軍も立ち去った現場にたどり着いた竜紹鉄たちは生存者を探し、まだ息がある文軒を救出する。しかし、石頭は死体も見つからず、竜らは彼が捕虜になったことを悟る。

 大野連隊で激しい拷問を受ける石頭。大野は芥川の執着に疑問を持つが、芥川の頭の中にはすでに竜紹鉄のことしかなかった。

 芥川は石頭をおとりに竜紹鉄をおびき寄せようとするが、逆に竜紹鉄と八路軍に待ち伏せ攻撃されてしまう。不利な状況を悟った日本軍部隊が撤退する中、芥川は一人残り、石頭を救いに飛び出した竜紹鉄に執念の攻撃をしかける。それでも八路軍の援護を受けた竜紹鉄は石頭を救い出し撤退する。

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※瀕死の石頭を抱えて逃げる竜紹鉄


 一人目を覚ました蘇雲暁は何かを決意し、足を引きずってどこかへ向かう。

 医師から文軒が助かることを聞いて安心する段旅長。そこに石頭が運び込まれ、あまりの重傷に助からないかもしれない、という医師に竜紹鉄はナイフを突きつけ何としてでも救うことを迫る。医師は石頭を戦区の病院に送ることにする。

 林団に戻る途中、大春らは倒れている蘇雲暁を発見し、林団の病院に連れて行く。
 
 意識を取り戻した文軒は、蘇雲暁が行方不明であることを知り、怪我をおして起き上がる。

 蘇雲暁の持っていた憧れの狙撃銃を触りまくる大春。九児は、諜報員である彼女がそんな銃を持っているのは変だと指摘し、二人は蘇雲暁のいた場所と文軒の部隊が全滅した場所の位置関係、また例の謎の狙撃手の行動を整理して、いくつかの謎の答えにたどり着きそうになる。

 意識を取り戻した蘇雲暁は、大春たちが止めるのも聞かず、用事があると県城に向かおうとする。九児に会った蘇雲暁は、自分が考えていた通り、善良で美しい少女だと言う。九児は、蘇雲暁をとても美しい人と思い、竜紹鉄が彼女を忘れられないのも無理は無いと思う。

 竜紹鉄は林団からの連絡で蘇雲暁が林団にいると知り、急いで向かう。それは文軒の知るところともなった。しかし、すでに蘇雲暁はいなくなっており、竜紹鉄は県城へと向かう。

 竜紹鉄は途中で文軒と行き会い彼を止めるが、夫としての責任を果たしたいと言う文軒に銃を貸し、先に行かせてやる。

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※竜紹鉄の敬礼に弱弱しい敬礼で返す文軒



 県城の教会に着いた蘇雲暁は神父に約束を果たすよう要求し、教会内に閉じ込められていた蘇雲暁の父母と弟を連れてこさせる。彼女の家族は村が日本軍に襲われた時、殺されてはいなかったのだ。

  蘇雲暁は芥川が来るまで引渡しを拒む神父を射殺し、家族を連れ出そうとするが、岡崎率いる日本軍に教会を包囲されてしまう。

  必死に家族と教会内の孤児たちを守る蘇雲暁の元に、文軒と彼を追ってきた段旅の兵士たちが加勢に加わる。一時は優勢に立った蘇雲暁たちだが、芥川が駆けつけ、段旅の兵士たちを次々倒し、再び蘇雲暁と文軒だけになってしまう。

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※怯える孤児たちを守る蘇雲暁


  県城に駆けつけた竜紹鉄は日本兵から銃を奪い、教会に向かう。

2012年12月 2日 (日)

『狙撃手』18~19話 BL的感想(2)

 長く間があいてすみません。18話~19話のBL感想第二弾です。

※以下、腐ネタばっかです。

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2012年10月14日 (日)

『狙撃手』BL的18話~19話 感想

 さてさて、強敵・文軒の登場にもめげず、今まで着実に竜紹鉄の好感度を稼いできた大春の地位はなお磐石。しかし、このあたりで物語は大きく舵を切り、それに併せて思わぬところから二人の仲も怪しくなってしまう・・・・・・。


 でもまあ、まずはラブラブな二人を。




※以下、ものぉすごぉく腐

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2012年9月14日 (金)

『狙撃手』18話~19話 感想

感想


 無事、八路軍長官を送り届けた国共連合軍。ここ数回で人間的に丸くなってきていた竜紹鉄はますます丸くなり、やはりどこかで線を引いてしまっていた銭国良や方儀球とも上官と部下ではなく兄弟的な関係を築いていく。

 しかし物語としての蜜月期間は、ここでシンジの成長物語が破綻した(95年)エヴァのように終わりをつげてしまう。


 その始まりは、蘇雲暁の流産とそれが原因の子宮切除。このへん、戦場描写とはまた別にやけに生々しくて見るに忍びない。かつて家族をすべて南京虐殺で失い、その後、一度は生まれた子供も失い、それでも蘇雲暁と暖かい家庭を築くことを夢見た文軒のことを思へば、その悲劇性は増大する。

 それでも蘇雲暁は孤児を引き取って育てることに希望を見出し、立ち直っていくが・・・・・・さて。



 一方、とうとう芥川も壊れ始めてきた。

 失敗続きに苛立っていたのか一人もの思いに沈んでいた時にたまたま通りかかった子供に殺意を抱き・・・何の理由もなく射殺してしまうのだった。

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逃げる子供を狙い撃つ芥川

 こんな行為は今までの芥川にはありえないことであった。芥川を尊敬する岡崎もこの件についてははっきりと非難している。

岡崎「少佐、前言ったが、『狙撃手は殺戮者ではなく平民は殺さない』食言した!」

芥川「うるさい!」(岡崎を殴る)



 狙撃者は殺戮者ではない。


 この言葉こそ芥川を特異な人物たらしめているゆえんであり、また組織ではなく自分の規律のみに従う芥川が自ら自己に課してきた規律であり、狙撃である彼のプライドそのものである。

 それを芥川は破った。無力でしかも逃げている子供を狙い撃つというおそらく今まで彼がもっとも軽蔑していた行為で。

 ただ、この段階でまだ芥川は自分の何かが狂い初めてきたことにとまどっていた。だからこそ岡崎に非難された時に殴って黙らせたのだ。


 ところでこの事件を起こす前、芥川は弟に宛てて手紙を書いている。彼の弟は中国戦線の別の場所で戦い、なにやらこの戦争に対する疑問を書いた手紙を送ってきていたらしい。それに対して芥川は「天皇陛下のために国のために命を捧げる覚悟でいてほしい」と諭す手紙を書いていたのだ。

 それでも手紙の全体の雰囲気は優しく、彼がこの弟と手紙をやりとりするのを楽しみにしている様子が伺える。


 その後、件の子供射殺事件を起こした後の芥川の元にまた手紙が来る。中に入っていたのは弟の写真と身に着けていたお守り、そして弟の戦死を知らせる手紙であった。芥川が手紙で諭したように、弟は「天皇陛下のため国のため」命を落とすことになった。

 芥川は呆けているとも思えるほど緩慢な動作で、その写真とお守りをを部屋の仏壇に飾る。そこにはすでに二人の弟の遺影があった。今回戦死した弟は芥川の三人いた弟の最後の一人であった。

 仏壇に飾った写真を見ながら、芥川は奇怪な表情を浮かべる。すべての弟が失われたことを泣けばいいのか、自分一人だけ仏壇の外にいる(生き残っている)ことを嘲笑えばいいのかわからないような顔を。このへん矢野浩二の演技がたいへん秀逸で、芥川の絶望がかえってダイレクトに伝わってくる印象深いシーンであった。

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 そして次の瞬間、芥川の絶望と悲しみは一気に憎しみへと転化される。

 静から動へ。芥川は弟たちが身につけていたお守りを三つとも首にかけると駐屯地を飛び出し、闇にまぎれて新八旅の武器庫を攻撃。それは衝動的に子供を殺した時とは別の、冷めた確信的狂気であった。

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 武器庫の爆発を背中に静かに去っていく芥川の姿に、今後起こるであろう悪夢を想像せずにはいられない場面である。



 実は私には芥川の「弟を殺された憎しみ」について思うところがあるのだが、それはまた次会改めて書こうと思う。
 

2012年8月26日 (日)

『狙撃手』18話~19話 あらすじ

あらすじ


※青=国民党軍関係者,赤=八路軍,共産党関係者,緑=日本軍関係者で表しています


 八路軍のために死地に赴くことに嫌気がさした方儀球は、隊列から離れ行方をくらます。探しに行った銭国良もかえって方儀球の逃亡につき合わされることになる。

 方儀球は安定しない兵隊人生の中で、この年になっても妻子を持てなかった自分の人生を自嘲し、妻がいる銭国良がうらやましいという。しかし銭国良もまた、戦争で3年ほど家を留守にし、貯めた金をはたいて指輪を買って帰ったら、妻には別の男ができていた、という過去を語る。二人は夜の森の中で、つくづくついていなかった自分達の人生を語りあう。


 大春は、自分たちがこれから進む道には必ず芥川が待ち構えているだろうが、八路軍長官国軍の第二戦区長官・衛立煌との会談の時間に間に合わすため、道を変えることはできない、と竜紹鉄に説明する。なぜなら、衛長官は最近八路軍に不信感を持つようになっており、また国民党の会議に出席するため重慶に発つ時間が迫っている。もし八路軍の長官が会談の時間に間に合わなかったら、八路軍への不信を決定的にしたまま重慶に発つことになってしまう。だから芥川が待ち構えていようとも最短の道を突破するしかない、と。

 大春は八路軍が芥川ら日本軍と戦っている隙に、国軍が八路軍長官を護衛して突破してほしいと頼み、日本軍との戦闘を開始する。また、もし自分に何かあったら後を頼むとも言う。

 いったんはその言葉を受け入れた竜紹鉄。だが、大春らが苦戦するのを見て、石頭らに長官の護衛をまかせ加勢に加わってしまう。しかし、依然として危険な状況が続く。

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戦況を打開するため飛び出す大春

 その時、森の中から銭国良と方儀球が加勢に加わり、竜紹鉄と芥川の対決を援護する。銭国良,方儀球,九児らが負傷していく中で例の謎の狙撃手が現れて竜紹鉄を助け、国軍と八路軍は日本軍の包囲を突破し、八路軍長官を無事に送り届ける。


 竜紹鉄は負傷した銭国良と方儀球を見舞い、今までの上官と部下というよそよそしい関係を改め、二人に歩み寄るよう努めることにする。

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儀球にタバコを吸わせてやる竜紹鉄


 しかし、文軒は竜紹鉄の八路軍との共同行動を問題視し、彼を段旅本部での謹慎処分とし、体調が思わしくない蘇雲暁を案じながらも出張に出かける。

 中国の別の戦地にいる弟と手紙のやりとりをする芥川は、天皇陛下のためにがんばるよう弟を激励する。しかし、その後外で一人物思いに沈んでいた時、通りかかった子どもを思わず撃ち殺してしまう。


 出血に気づいた蘇雲暁は婦人科に行こうとし途中で倒れる。竜紹鉄は彼女のために謹慎処分を破って、日本軍が支配する県城の病院に押し入り、日本人医師に治療を要求する。

 医師は、彼女は流産しかけており子宮を除去しなければ命を落とすと告げる。蘇雲暁が二度と子どもを産めない体にしたくはない竜紹鉄は銃を突きつけて医師に別の方法を考えるよう迫るが、もはや他にどうしようもなかった。

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蘇雲暁を救うよう医者に迫る竜

 出張から帰った文軒は妻の危機を知り、部隊を率いて県城に戻る。手術を終えた蘇雲暁と竜紹鉄は軍服を脱いで県城を抜け出ようとするが、運悪く芥川に見つかってしまう。何とか蘇雲暁を連れて県城の外まで逃げた竜紹鉄だが、そのまま芥川ら日本軍と銃撃戦になってしまう。そこに文軒らが駆けつけ、蘇雲暁を連れて脱出する。


 文軒は妻が子どもを産めない身体になったことに衝撃を受けるが、己を責める蘇雲暁を必死で労わる。蘇雲暁は文軒に自分との離婚を勧めるが、文軒は同意しない。文軒は、すべては日本軍のせい戦争のせいだと言って妻を慰める。

 二人は戦争がなかったら自分たちは何をしていただろうと語りあう。文軒は教師になりたかったと言い、看護婦になりたかったという蘇雲暁に、きっと本当の天使のようだろうと言う。しか、しなぜか蘇雲暁は「自分は悪魔」だと言い張る。

 文軒は竜紹鉄を訪ね、蘇雲暁に何かあったら自分も生きてはいけなかったと言って、妻だけでなく自分を救ってくれた礼を言う。その上で、もし竜紹鉄が共産党や日本と通じ、党と国の敵となるならばそれは自分の敵であり、必ず君を殺すだろうと言う。しかし、すべての問題が解決した時がもし来たら、二人で酒を飲み交わしたいと告げる。

 回復した蘇雲暁は、戦争で両親を失った子どもを養子にしたいと言い、文軒も喜んで同意する。蘇雲暁は文軒に秘密で県城で孤児の世話をしている教会に行き、marryという少女を養子に取る手続きをしてくる。養子を取ることを心から喜んで話す蘇雲暁に竜紹鉄も彼女の再出発を喜ぶ。


 竜紹鉄と九児の関係に思い悩む大春は、つい二人のことを林団長に話してしまう。林団長は九児を呼び出して竜紹鉄とは階級的立場が違い、共産党員としてこのようなことは慎むべきだと指導するが、九児は受け付けない。

 九児は大春を非難するが、大春は竜のことを深く理解するゆえに「竜紹鉄は彼なりの固い信念を持っており、決して共産党に来ることはないだろう」と現実を諭す。


 大野連隊では、岡崎が「狙撃者は殺戮者ではない」とかつて芥川自身が言った言葉で、彼が子どもを殺したのは間違いだと芥川に指摘するが、いらだつ芥川に殴られてしまう。

 そして芥川の元には、弟の戦死の報が届いた。彼は三人いる弟の最後の一人であった。

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遺品として送られてきた最後の弟の写真とお守りに顔をふせる芥川

 芥川は弟の遺影を先に戦死した弟たちの仏壇に飾り、彼らが持っていたお守りを持って衝動的に段旅の武器庫を襲撃する。

2012年8月19日 (日)

『狙撃手』16話~17話 BL的感想(2)

 とても恐ろしいことに『狙撃手』の腐女子感想が続いてしまいました。(1)はこちら

 前回は大春と竜紹鉄の新婚夫婦ぶりにスポットを当てましたが、今回はある人物の遅すぎる(竜紹鉄争奪戦)参戦について。

 ここより先は腐界です。

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2012年8月11日 (土)

『狙撃手』16話~17話(1) BL的感想

 みなさま、コミケはいかがお過ごしでしたでしょうか? 帰国したのにお金が無くて行けないブログ主です。最近、新たなCPにはまり生活が崩壊しております。

 さて、それはともかく『狙撃手』16話~17話のBL的感想です。

 今回は無差別公開ブログとしてはかなりきわどい話もしているので(いつも以上に)ご注意ください。



 以下はものすごくBL。

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2012年7月15日 (日)

『狙撃手』16話~17話 感想

 もうだいぶ間が空いてしまったが、『狙撃手』レヴュー再開します。

 で、16話と17話のあらすじはこちら・・・・・・・って書いたの2月かよ!



 さて、今回は16話で日本軍中将の暗殺成功、インターバルを経て、17話で八路軍長官を会談のために送り届ける、というエンタメに終始した回。気楽に楽しみながら見れるパートです。

 その中で文軒の竜紹鉄に対する誤解も無事解け・・・・・・たと思ったら、今度は「共産党に通じている」という疑惑をかけられてしまう・・・と竜には次から次に災難が尽きない。



 それはそうと、今まで薄々描写されていたけれど、今回とてもはっきりしてしまったこと。それは、


竜紹鉄って超無神経なんじゃない?


 ってこと。私はさらに一歩踏み込んで言おう。


 彼は、可哀想な自分が大好きな人、なのだ、と。


 この彼の人間的欠陥は、確かに今まで現実にひどい目にあって可哀想な境遇にいたことと、ストイックで強い人間という彼自身の印象のせいでいまいち曖昧にされてきたが、以下の大春とのやりとりであからさまになってしまった、と思う。

 それは八路軍長官を送り届ける任務の途中、休息でみなが食事をしている時、大春は一人で銃の手入れをしている竜紹鉄を見つけ、食べるものを持っていくが、竜はいらないと言う・・・・・・

大春「そう言えば、おまえって毎回毎回、任務中には何も食べないよな。なんで?」

竜紹鉄「食事は任務遂行の邪魔になる」

大春「へえ? じゃあ、おまえ腹減らないのか?」

竜「軍校で水だけで7日間過ごす訓練を受けた」

大春「7日!? すげぇな、7日間も何も食べなかったら銃を持つ手も震えるだろ?」

竜「いや」

大春「・・・・・・信じられねぇな、7日も食べないで戦うなんて。俺なんて、一日食べないだけでも足元がふらつくぞ」

竜紹鉄、くすりと笑う。

竜「おまえらしいな」

大春「・・・・・・そうだ、大少爺。俺ら知り合ってからだいぶになるけど、なんで俺がおまえのこと大少爺って呼んでいると思う?おまえの家がマジで大地主だからだよ。なあ、おまえんちでは毎日卵が食べられるんだろ? 大きな餅(ビン、中国の平たいパンのこと)にはさんでさ。そんなに食べるから馬鹿になるんだ」

竜(辟易気味に)「おまえ、人の家のことを話したいのなら、まず自分の家のことを話せ。おまえの父母は何をしている? おまえは何故八路軍に入ったんだ?」

 ・・・・・・竜紹鉄は、なぜ大春が突然、「なんで俺がおまえを大少爺(若旦那、道楽息子)なんて呼ぶと思う?」と問いかけたかわかっただろうか?

 わかったわけがない。彼は突然、己が地主であることを揶揄し始めた大春に辟易とした態度を見せている。話題を変えたのもいつもの彼のきまぐれ、自分を揶揄って楽しんでいるくらいにしか思っていないのは明らかだ。



 大春は「俺なんて、一日食べないだけで足元がふらつく」と言った。

 それに対して竜紹鉄は「おまえらしい」と言って小さく笑った。それは軽蔑ではなく、友人の失敗談に「おまえって奴は」というのと同じ親しみの篭ったものだった(ここで、竜紹鉄が大春に対し見違えるほど心を許しているのがわかる。以前は誰も寄せ付けないほどだったのに、大春が隣に座ってもかまわないようだし、彼と普通に会話し、軽口や笑顔まで出るようになっているのだから)。

 だが、竜紹鉄は想像してみなかったのだろうか? 「一日食べない」という状況が、大春にとって冗談でも例えでもなく実体験である可能性を。

Cap1055

竜も打ち解けて一見なごやかな光景だが


 大春は貧農の出身だ。そして紅軍時代からの兵士だ。

 この時代、貧農であること、あるいは紅軍の兵士であることが何を意味するか?

 端的に言えば、容易に飢餓に苛まれることがある存在、だということだ。

 大春の過去に「何も食べるものがない」という事態があったこと、しかも頻繁にあったかもしれないことは何も大げさな可能性ではない。そうであれば、大春はまた「食えない恐怖」を知っているということだ。



 ここで、ふと気になることは、今までのストーリーで竜紹鉄が食事をしているシーンが皆無であることである(段旅長との酒の席でツマミを食べた以外は)。

 対して大春が食事をしているシーンは多い。それも実に(大食いというわけではないが)「食べることに懸命」であることが伝わるような食いっぷりだ。話さなきゃいけない時でも食事は中断しないで食べながら話すし、九児が落とした弁当を慌てて拾って食べた、というシーンもあった。

 「次は食べられないかもしれない」。飢餓を体験した人間にはそのような恐怖が理屈を超えて体に染み付いているのかもしれない。だから(一種の脅迫観念のように)食べられる時は絶対に食べる(大春が食事を拒否したのは、自分のミスで仲間が死んだことに対する自責の念で銃殺刑を願っていた時だけだ)。

Cap105

食べる時は真剣です(7話)


 しかし、そんな「飢餓の恐怖」が染み付いた、そのような生を生きるしかなかった人間に向かって竜紹鉄は簡単に言ってのけたのだ。


「食べなくても大丈夫なように訓練を受けた」と。


 大春にとって否応もなく味わなければならなかった苦痛を、竜紹鉄は「訓練」でやった。言い換えれば、竜紹鉄にとっては「飢餓」は選択の問題であり、鍛錬の一環にすぎなかった。



 地主に搾取される貧農の息子として生まれたがゆえに「飢餓」をリアルに恐怖する自分と、金と食べるものに困るという体験をしたことのない地主の息子として生まれ任務遂行のために「訓練」で「飢え」を乗り越える力を身につけた竜紹鉄。

 大春は、改めて自覚したのだろう。ともにいくつもの苦難を乗り越え心から信頼しあえる相手であったはずの竜との間にある階級に基づく絶対的な差異が。



 いや、それは本質的な問題ではない。結局は過去のことであるし、お互いの「生まれ」についても、それだけであれば二人の間では乗り越えられない壁というほどではない。実際に今まで大春はさまざまな壁を乗り越え、竜紹鉄との関係を築いてきた。

 これは確かなことだが、「食べなくても戦える訓練を受けた」と言った竜紹鉄の言葉に他意も悪意もない。大春の素朴な疑問に対して、率直に事実を述べたまでだ。そこには自慢する意図も皆無だったろう。


 だが、まさしくその悪気のなさことが最大の問題なのである。

 大春には痛いほど見えている二人の間にある差異が、竜紹鉄にはまったく見えていないこと。竜紹鉄が自分に向かっていったい何を言ってしまったのか、まったく無自覚なこと。そのことに関してこそ大春は傷つき、二人の間の「差異」は完成されてしまったのだ。

 そのことに関する竜紹鉄の無頓着さ、それを可能にしているものこそ、彼が持つ「地主の息子」という階級的特権なのである。



 そして大春は、それまでの話の流れを無視するように、唐突に話題を変える。

大春 「そうだ、大少爺。俺たち知り合ってからずいぶんになるけど、なんで俺がおまえのことずっと大少爺(若旦那、道楽息子)って呼んでいるかわかるか?」

 ほとんど彼のいつもの気まぐれのような強引な話題転換。一見、そのようなものに見える。

 だが、これは大春の竜紹鉄に対する切実なメッセージだったのではないだろうか?

 このような問いを突破口に、竜紹鉄に自分が誰に何を言ったか、その言葉が二人の間にある何をあらわにしてしまったか・・・・・・そしてそのことを竜紹鉄に気づいてほしかったのかもしれない。

(それにしても、「金持ち」のイメージが「毎日卵を食べられる」しか思い浮かばない大春。かえって彼の境遇の痛々しさがあらわになる)
 

 そして、これは二人の長い付き合いの中で、大春が竜に初めて要求した願いとなる。



  だが、竜紹鉄がそれに気づいた様子はない。

  かえって自分の家のことをしつこくいう大春に辟易し、あろうことかこう聞くのである。

竜紹鉄 「おまえ、人の家のことを話したいのなら、まず自分の家のことを話せ。おまえの父母は何をしている? おまえは何故八路軍に入ったんだ?」

Cap1056

何も気づかず、辟易としている竜



 いったい竜紹鉄は、大春の境遇がそう気軽に聞いていいような気楽なものだとこの期に及んで考えていたのだろうか?

 確かに、大春の過去についてほとんど情報を持たない竜紹鉄にそういう可能性を想像しろ、と言うのはハードルが高いかもしれない。だが、それも今まで竜が大春という「最も信頼できる相手」の生に対して無頓着であった結果だし、情報が少ないと行っても彼の軍隊経験を現在の年齢から逆算すれば、彼がかなり若い頃から兵士であったことはわかるかもしれない。

 そこから大春の家族の状況が決して幸福なものでないことの想像はつけられたのかもしれないのに。



 それに対して大春は、ごく普通の口調で話しはじめる。だが・・・・・・

大春「ん? 俺んちは先祖代々小作農だよ。小作農って知っているか? 地主の下で働くんだ。(笑って)大少爺は親方だな。・・・・・・8歳の時、俺の親父も母親も白軍(国民党軍)に殺された」

竜「・・・・・・」

大春(涙ぐみはじめる)「共産党に通じた、ってことで。あの時は、村人の半分が、首を切られて殺されたな。俺の姉は18歳だった。遊撃隊に参加して政委やっていたけど、白軍に捕まって銃殺された。俺は10歳になっていて、家族も親戚もみんな白軍に殺されてしまっていたから、胡子叔の後について紅軍に入った・・・・・・白軍のくっそったれめ」

大春、うなだれる。

Cap1058

やっぱり親代わりだったらしい胡子叔(3話)



 大春がなぜ自分の過去を今まで竜紹鉄に語らなかったのか。それは、地主階級で国民党軍の士官である竜紹鉄にとって、「国民党軍に家族を皆殺しにされ、孤児になったから紅軍に入った」なんて話は楽しいものではないからだ。

 そして聞かれた時でさえ、大春はなるべく深刻にならないように語るつもりでいたのだろう。それは、最初はひどく何気ない口調で、冗談まじりでさえあったことからも明らかだ。

 しかし「8歳の時~」と言った時、それまで笑っていた大春の顔が固まった。そしてその後は、淡々としかし止めることができない様子で、父母が、村人が殺されたことを語る言葉を紡ぎ続けるのである。いざ話し始めると過去の傷が開き始め、自分でも抑制がきかなくなってしまったようだ。

 そして最後にはとうとう泣き出してしまう。

Cap1057

涙をこらえられない大春



  竜紹鉄はなぜこれほどまでに、「生死をともにする絆で結ばれた」大春もまた、深い傷を負っているかもしれない可能性を考えなかったのだろう。

 お調子もので考えなし、明るくて単純明快、そして強い。大春は一見そのような人間に見えることだろう。

  それに加えて、地主階級の出身でエリートコースを進んできた竜紹鉄にとっては、大春のような無教養で「ごろつきのような」人間が、自分と同じような繊細な感情などを持っているなどといういうことは想像の埒外だったのではないか。



 無意識の中で、最も傷ついているのは自分であり、自分以外の者は自分ほど傷ついてはいない、とでも竜紹鉄は思っているのではないだろうか?

 竜紹鉄の過去や境遇は、確かにかなり悲惨だ。彼がひどくツライというのもよくわかる。

 だが、彼は自らその「可哀想な自分」に酔ってはいないだろうか? 悲劇の主人公であることに安住していないだろうか。

 その強情と冷淡という殻で身を守っているため一般的にはわかりにくいが、彼から出ている「悲劇の主人公」ぶったオーラは九児や林団長などは気づいている。

 九児や林団長はそれによって彼に同情を示すが、私はむしろ竜紹鉄自身が無意識のうちに「可哀想な自分」に酔っているようにも見える。

 「最も可哀想なのは自分」と認識し、その状態が本来ならつらいにも関わらずそこに安定や心地よさを見出そうとする者は、他人も自分と同じようにつらく傷ついているかもしれないということに盲目だ。だから大春に無神経でいられた。



 今までの竜紹鉄と大春の関係を振り返ってみると、逃亡兵を撃たざるを得なかった竜の気持ちを彼の立場に立って考え「とてもつらいと思う」と言って弁護したのをはじめ、中山条戦役で大敗した竜にやつあたりで殴られても彼が自分の殻に閉じこもってしまっても側につきそい支え続けた。

 そして竜紹鉄が悪夢にうなされていると知ると、それまで竜と九児の関係を嫉妬していたという「自分の都合」も忘れ、自分の傷が開くことも厭わず、まさにそうすることで竜の苦痛を分け合おうとさえ知った。

 だが、大春が竜を支え、その苦痛をともに分かち合おうとしていたのに対し、竜は大春に同じようなことは決してしなかった。それどころか、そんな必要があるとは考えたこともないだろう。

 大春もまた自分と同じように傷つけば痛いし、つらいときは支えが必要だということに気がつかなかった。さらに、戦争という過酷な状況で他人を思いやり支えることが(自分だってつらいのに)どれほど大変か思い至らなかった。



 こう書いてみると、竜紹鉄と大春の関係はなんなのだろう、とさえ思う。

 確かに竜紹鉄を支えるのは大春がそうしたいからそうしていることだ。だが、二人きりの逃避行を境に、竜は心を開き大春と心を通わし、この過酷な時代を乗り越えるためにともに戦う相手として大春の存在を望んでいる。

 だとすれば、一方だけが一方に与える関係ではいけないだろう。そんな状態が続けば、大春の方が耐えられなくんるだろうし、何より傷つく。



 遅ればせながら、大春の過去を知り、彼を泣かせてしまったことで竜紹鉄もやっと自分が「一番可哀想な自分」の殻に閉じこもり、大春を傷つけていたことに気がついた。

 そして、始めて自分から自分の過去を語りはじめたのである。
 

竜「・・・・・・・・・・・・俺の父親は元は軍官だった。小さかった時から、彼の俺に対する要求は厳しくて、早々と俺を軍校で学ばせた」

大春「・・・・・・」

竜「だが、今は父も母もこの世にいない。・・・・・・日本軍に殺された。すべての村人が殺された。俺の目の前で。・・・・・・俺は死体が埋められた穴から這い出してきたんだ・・・・・・」

大春「・・・・・・」

 ・・・・・・いまいち話がかみ合ってない気がするが、これは言わば、かつて悪夢にうなされる竜紹鉄の苦痛を分け合うために、大春が自分の過去の悲惨な出来事を語ったのと同じ手法と見ていいだろう。

 こういう手法が効果があるのか疑問では有るし、そもそも4年前に父母は死んだがそれまでは特に不自由なく暮らしていた竜紹鉄と、生まれた時から貧困で、十歳で孤児になり兵隊にならなければならなかった大春とでは、決して同じ「父母を殺された者同士」という論法にはならない。もし竜がそういうつもりでこう言っているなら、それは二人の溝を広げることにしかならないだろう。


Cap1034





 だが、大春の時と同様、ここで大事なのは竜紹鉄がこの告白を通じて何をしようとしていたかだ。

 竜紹鉄は今まで他人の傷に寄り添い、その苦痛を分け合うなどということはしたことがなかった。だから、それをしたいと欲してもどうしたらいいかわからない。

 そこで思い出したのが、以前、大春が自分の苦痛を分け合うとした方法だったのではないだろうか。

 竜紹鉄には大春を慰めるべき言葉も、今まで無頓着でいたことを悔やむ言葉もない。

 だから、大春と同じように過去を包み隠さず語る。そうすることで、自分が大春の痛みを理解しようとしていること、苦痛を分け合いたいという意思があることを伝えようとしたのではないだろうか?



 やっぱりちょっと的がはずれているかもしれないが、竜紹鉄が大春だって傷ついているのであり、彼が自分にそうしてくれたように、自分も彼を支えなければいけないことに気がついたのだとしたら、それは竜紹鉄にとって大きな進歩とも言えるかもしれない。

 
 

2012年2月21日 (火)

『狙撃手』16話~17話 あらすじ

※国軍・国民党の人物・組織=青,八路軍=赤,日本軍=緑で表記しています。



16話 あらすじ

 潜伏し福山中将の到着を待つ竜紹鉄洪大春の国共両部隊。中将を迎えるため日本軍が陣地一帯の捜索を行うが、見つからずに済む。しかし芥川はその捜索方法に不満で火炎放射器を用いるよう指示する。

 中将が到着し激励式が行われる中、大春の隠れていたあたりが火炎放射器の炎を浴びてしまう。大春は火に包まれ苦しみながらも、助けに来ようとする仲間を制して一人耐え続ける。大春の決意を感じた竜紹鉄は、彼を見殺しにするかもしれない苦悩を抑え隠蔽を続ける。

Cap964

炎に焼かれてしまう大春

 中将に狙いをつける竜紹鉄だが、寸でのところで芥川に気づかれる。国共両部隊の戦士たちは銃撃で芥川を牽制するものの、胡子叔が額を打ち抜かれて戦死する。芥川は竜紹鉄に狙いを定めるが、身体の火を消した大春の銃撃で阻まれ、その間に竜紹鉄は逃げようとする中将の射殺に成功し撤退する。

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ただ一心に標的に狙いを定める竜紹鉄

 竜紹鉄の成功を聞いた文軒は、彼がスパイである可能性を完全に払拭せざるをえなくなる。段旅に戻った竜紹鉄は段之凡旅長の賞賛を受ける一方、今回の作戦における林団の損失を思いやる。一方、蘇雲暁の元には切断された人間の手首が入った箱が送られてくる。

 林団の医務室で目覚めた大春は胡子叔の死を知り、九児とともに悲しみにくれる。胡子叔の遺品を整理していた九児は、二勇が胡子叔に預けていた母親宛の手紙がそのままになっているのに気づく。大春は、実は二勇の母親はすでに日本軍の爆撃で死亡していたのだが誰も真実を二勇に告げることができず胡子叔は手紙を届けるふりをしていた、と打ち明け、これから二勇を騙す役は自分が負う番になったと言う。

 大野連隊では、芥川が自分を罰するため冷水につかり、大野は芥川の不手際を叱責する。

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冷水行(?)の芥川

 苦手な夜間射撃を克服するべく、目隠しでの射撃練習を行う竜紹鉄の元に蘇雲暁が訪れ、二人は久しぶりに穏やかに語り合う。竜紹鉄は蘇雲暁と文軒の間にはすでに子どもがいたがその子は幼くして死んだことを知り、かつての不用意な発言を詫びる。竜紹鉄は蘇雲暁が文軒と幸福な家庭を築くことを願う、と言い彼女への気持ちにけりをつける。

 蘇雲暁が去った後、二人の様子を見守っていた文軒が意を決して竜紹鉄の前に現れる。文軒は竜紹鉄の任務完成を賞賛し、また張脆は死んだが段旅内にはまだスパイがいる可能性を話す。文軒はすでに竜紹鉄を疑っていないことを告げ、彼をいつも助けに現れる謎の狙撃手を疑うものの、「あの狙撃手は我々の味方だ」と竜紹鉄が言うと、それ以上言い争おうとはしなかった。家に帰った文軒は蘇雲暁の暖かい配慮に改めて彼女に対する愛を確認する。



17話 あらすじ

 一方、段旅林団が接近しすぎなのを危険視する重慶の軍統本部は、文軒の師である呉局長を段旅に派遣する。段之旅長はしばらく八路軍の者たちと会わないよう竜紹鉄を諭すが、竜は抗日よりも共産党対策を優先する中央に全く納得がいかない。やって来た呉局長に共産主義に対する考えを質問された時も非友好的な態度で「彼らの抗日に対する姿勢はたいへんすばらしい」と答える。文軒は竜紹鉄を弁護しようとするものの、呉局長は文軒に今後も竜紹鉄を監視するよう命じる。

 竜紹鉄に再び任務を与えてもらえない日々が訪れる。文軒は竜紹鉄に退役を勧めてくれるよう蘇雲暁に頼む。「無実の千人を殺しても一人の共産主義者を逃がすな」な軍統に目をつけられた以上、竜紹鉄の命は風前の灯火だからだ。事態の深刻さを理解した蘇雲暁は必死に説得するが、以前は退役したがって竜紹鉄も今では「段旅の仲間を置いてはいけない」と拒絶する。

 大春九児は段旅の周辺にスパイが出没するという情報を得て付近で待ち伏せる。ちょうど見回りにやってきた竜紹鉄は突然何者かに狙撃されるが、相手が殺す意図が無いことを見抜く。九児は逃げる狙撃犯の左肩を撃つが、相手は段旅の駐屯地のある方角へ行方をくらます。竜紹鉄は段旅の兵士たち全員を集めさせ負傷している者を探すが該当者は一人もいなかった。

 一方、八路軍の長官が第二戦区(『狙撃手』の舞台は山西省南部であり、中華民国の戦区では第二区にあたる。戦区全体のトップは衛立煌)トップの衛長官と会談するため、林団の担当区を通過することになった。林団長は大春と九児に八路軍長官を護衛する任務を与え、竜紹鉄にも協力を要請する。文軒は共産党とのつながりを疑われている最中にとんでもないことだと反対するが、 竜紹鉄はこころよく引き受ける。

 この国共高級会談の情報はスパイによって大野連隊にももたらされ、芥川は先日まんまと福山中将を射殺された恨みをはらし中国軍の戦力を挫くため、移動中の八路軍長官を襲うことにする。

 再びともに行動する竜紹鉄と洪大春の部隊。休息中に大春は竜紹鉄に食事を勧めるが、竜紹鉄は、任務中は食事を取らなくても大丈夫なように訓練されている、と答え大春は驚く。大春は、自分だったら一日でも食べなければとても耐えられない、と言うが、そこに含まれる意味をいまいち理解していない竜紹鉄に対し、大春は彼が地主の息子であることをもちだしてからかう。

 それに辟易とした竜紹鉄は、大春の家こそどんな家で両親はどうしているのか尋ねる。しかし、大春の両親は彼が8歳の時に共産党狩りの国民党軍に殺され、10歳の時には唯一の親族であった姉も殺され、孤児になった大春は胡子叔について紅軍(八路軍の前の共産党軍)についていくしかなかった、ことを知ってしまう。途中から思わず泣き出してしまった大春を傷つけてしまったことを悟った竜紹鉄は、自分の両親も村の人間もすべて日本軍に殺され、自分は死体の中から這い出してきた人間だと話す。

Cap1057

昔のことを話すうちに思わず涙ぐんでしまう大春

 行軍を続ける国共両部隊だが、方儀球大刀の間でけんかが発生する。竜紹鉄と大春が仲裁に入るが、方儀球と銭国良はスパイも発見されていない状況下で八路軍のために危険な任務を手伝う不満をぶつける。不満が収まらない方儀球はいつのまにか行方をくらまし、竜紹鉄は銭国良に探しにいかせる。

 芥川はスパイの情報に基づき、ある地点で竜紹鉄らを待ち伏せることにする。岡崎は、中国人スパイからの情報など信じられない、と言うが芥川は耳をかさない。