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2012年7月15日 (日)

『狙撃手』16話~17話 感想

 もうだいぶ間が空いてしまったが、『狙撃手』レヴュー再開します。

 で、16話と17話のあらすじはこちら・・・・・・・って書いたの2月かよ!



 さて、今回は16話で日本軍中将の暗殺成功、インターバルを経て、17話で八路軍長官を会談のために送り届ける、というエンタメに終始した回。気楽に楽しみながら見れるパートです。

 その中で文軒の竜紹鉄に対する誤解も無事解け・・・・・・たと思ったら、今度は「共産党に通じている」という疑惑をかけられてしまう・・・と竜には次から次に災難が尽きない。



 それはそうと、今まで薄々描写されていたけれど、今回とてもはっきりしてしまったこと。それは、


竜紹鉄って超無神経なんじゃない?


 ってこと。私はさらに一歩踏み込んで言おう。


 彼は、可哀想な自分が大好きな人、なのだ、と。


 この彼の人間的欠陥は、確かに今まで現実にひどい目にあって可哀想な境遇にいたことと、ストイックで強い人間という彼自身の印象のせいでいまいち曖昧にされてきたが、以下の大春とのやりとりであからさまになってしまった、と思う。

 それは八路軍長官を送り届ける任務の途中、休息でみなが食事をしている時、大春は一人で銃の手入れをしている竜紹鉄を見つけ、食べるものを持っていくが、竜はいらないと言う・・・・・・

大春「そう言えば、おまえって毎回毎回、任務中には何も食べないよな。なんで?」

竜紹鉄「食事は任務遂行の邪魔になる」

大春「へえ? じゃあ、おまえ腹減らないのか?」

竜「軍校で水だけで7日間過ごす訓練を受けた」

大春「7日!? すげぇな、7日間も何も食べなかったら銃を持つ手も震えるだろ?」

竜「いや」

大春「・・・・・・信じられねぇな、7日も食べないで戦うなんて。俺なんて、一日食べないだけでも足元がふらつくぞ」

竜紹鉄、くすりと笑う。

竜「おまえらしいな」

大春「・・・・・・そうだ、大少爺。俺ら知り合ってからだいぶになるけど、なんで俺がおまえのこと大少爺って呼んでいると思う?おまえの家がマジで大地主だからだよ。なあ、おまえんちでは毎日卵が食べられるんだろ? 大きな餅(ビン、中国の平たいパンのこと)にはさんでさ。そんなに食べるから馬鹿になるんだ」

竜(辟易気味に)「おまえ、人の家のことを話したいのなら、まず自分の家のことを話せ。おまえの父母は何をしている? おまえは何故八路軍に入ったんだ?」

 ・・・・・・竜紹鉄は、なぜ大春が突然、「なんで俺がおまえを大少爺(若旦那、道楽息子)なんて呼ぶと思う?」と問いかけたかわかっただろうか?

 わかったわけがない。彼は突然、己が地主であることを揶揄し始めた大春に辟易とした態度を見せている。話題を変えたのもいつもの彼のきまぐれ、自分を揶揄って楽しんでいるくらいにしか思っていないのは明らかだ。



 大春は「俺なんて、一日食べないだけで足元がふらつく」と言った。

 それに対して竜紹鉄は「おまえらしい」と言って小さく笑った。それは軽蔑ではなく、友人の失敗談に「おまえって奴は」というのと同じ親しみの篭ったものだった(ここで、竜紹鉄が大春に対し見違えるほど心を許しているのがわかる。以前は誰も寄せ付けないほどだったのに、大春が隣に座ってもかまわないようだし、彼と普通に会話し、軽口や笑顔まで出るようになっているのだから)。

 だが、竜紹鉄は想像してみなかったのだろうか? 「一日食べない」という状況が、大春にとって冗談でも例えでもなく実体験である可能性を。

Cap1055

竜も打ち解けて一見なごやかな光景だが


 大春は貧農の出身だ。そして紅軍時代からの兵士だ。

 この時代、貧農であること、あるいは紅軍の兵士であることが何を意味するか?

 端的に言えば、容易に飢餓に苛まれることがある存在、だということだ。

 大春の過去に「何も食べるものがない」という事態があったこと、しかも頻繁にあったかもしれないことは何も大げさな可能性ではない。そうであれば、大春はまた「食えない恐怖」を知っているということだ。



 ここで、ふと気になることは、今までのストーリーで竜紹鉄が食事をしているシーンが皆無であることである(段旅長との酒の席でツマミを食べた以外は)。

 対して大春が食事をしているシーンは多い。それも実に(大食いというわけではないが)「食べることに懸命」であることが伝わるような食いっぷりだ。話さなきゃいけない時でも食事は中断しないで食べながら話すし、九児が落とした弁当を慌てて拾って食べた、というシーンもあった。

 「次は食べられないかもしれない」。飢餓を体験した人間にはそのような恐怖が理屈を超えて体に染み付いているのかもしれない。だから(一種の脅迫観念のように)食べられる時は絶対に食べる(大春が食事を拒否したのは、自分のミスで仲間が死んだことに対する自責の念で銃殺刑を願っていた時だけだ)。

Cap105

食べる時は真剣です(7話)


 しかし、そんな「飢餓の恐怖」が染み付いた、そのような生を生きるしかなかった人間に向かって竜紹鉄は簡単に言ってのけたのだ。


「食べなくても大丈夫なように訓練を受けた」と。


 大春にとって否応もなく味わなければならなかった苦痛を、竜紹鉄は「訓練」でやった。言い換えれば、竜紹鉄にとっては「飢餓」は選択の問題であり、鍛錬の一環にすぎなかった。



 地主に搾取される貧農の息子として生まれたがゆえに「飢餓」をリアルに恐怖する自分と、金と食べるものに困るという体験をしたことのない地主の息子として生まれ任務遂行のために「訓練」で「飢え」を乗り越える力を身につけた竜紹鉄。

 大春は、改めて自覚したのだろう。ともにいくつもの苦難を乗り越え心から信頼しあえる相手であったはずの竜との間にある階級に基づく絶対的な差異が。



 いや、それは本質的な問題ではない。結局は過去のことであるし、お互いの「生まれ」についても、それだけであれば二人の間では乗り越えられない壁というほどではない。実際に今まで大春はさまざまな壁を乗り越え、竜紹鉄との関係を築いてきた。

 これは確かなことだが、「食べなくても戦える訓練を受けた」と言った竜紹鉄の言葉に他意も悪意もない。大春の素朴な疑問に対して、率直に事実を述べたまでだ。そこには自慢する意図も皆無だったろう。


 だが、まさしくその悪気のなさことが最大の問題なのである。

 大春には痛いほど見えている二人の間にある差異が、竜紹鉄にはまったく見えていないこと。竜紹鉄が自分に向かっていったい何を言ってしまったのか、まったく無自覚なこと。そのことに関してこそ大春は傷つき、二人の間の「差異」は完成されてしまったのだ。

 そのことに関する竜紹鉄の無頓着さ、それを可能にしているものこそ、彼が持つ「地主の息子」という階級的特権なのである。



 そして大春は、それまでの話の流れを無視するように、唐突に話題を変える。

大春 「そうだ、大少爺。俺たち知り合ってからずいぶんになるけど、なんで俺がおまえのことずっと大少爺(若旦那、道楽息子)って呼んでいるかわかるか?」

 ほとんど彼のいつもの気まぐれのような強引な話題転換。一見、そのようなものに見える。

 だが、これは大春の竜紹鉄に対する切実なメッセージだったのではないだろうか?

 このような問いを突破口に、竜紹鉄に自分が誰に何を言ったか、その言葉が二人の間にある何をあらわにしてしまったか・・・・・・そしてそのことを竜紹鉄に気づいてほしかったのかもしれない。

(それにしても、「金持ち」のイメージが「毎日卵を食べられる」しか思い浮かばない大春。かえって彼の境遇の痛々しさがあらわになる)
 

 そして、これは二人の長い付き合いの中で、大春が竜に初めて要求した願いとなる。



  だが、竜紹鉄がそれに気づいた様子はない。

  かえって自分の家のことをしつこくいう大春に辟易し、あろうことかこう聞くのである。

竜紹鉄 「おまえ、人の家のことを話したいのなら、まず自分の家のことを話せ。おまえの父母は何をしている? おまえは何故八路軍に入ったんだ?」

Cap1056

何も気づかず、辟易としている竜



 いったい竜紹鉄は、大春の境遇がそう気軽に聞いていいような気楽なものだとこの期に及んで考えていたのだろうか?

 確かに、大春の過去についてほとんど情報を持たない竜紹鉄にそういう可能性を想像しろ、と言うのはハードルが高いかもしれない。だが、それも今まで竜が大春という「最も信頼できる相手」の生に対して無頓着であった結果だし、情報が少ないと行っても彼の軍隊経験を現在の年齢から逆算すれば、彼がかなり若い頃から兵士であったことはわかるかもしれない。

 そこから大春の家族の状況が決して幸福なものでないことの想像はつけられたのかもしれないのに。



 それに対して大春は、ごく普通の口調で話しはじめる。だが・・・・・・

大春「ん? 俺んちは先祖代々小作農だよ。小作農って知っているか? 地主の下で働くんだ。(笑って)大少爺は親方だな。・・・・・・8歳の時、俺の親父も母親も白軍(国民党軍)に殺された」

竜「・・・・・・」

大春(涙ぐみはじめる)「共産党に通じた、ってことで。あの時は、村人の半分が、首を切られて殺されたな。俺の姉は18歳だった。遊撃隊に参加して政委やっていたけど、白軍に捕まって銃殺された。俺は10歳になっていて、家族も親戚もみんな白軍に殺されてしまっていたから、胡子叔の後について紅軍に入った・・・・・・白軍のくっそったれめ」

大春、うなだれる。

Cap1058

やっぱり親代わりだったらしい胡子叔(3話)



 大春がなぜ自分の過去を今まで竜紹鉄に語らなかったのか。それは、地主階級で国民党軍の士官である竜紹鉄にとって、「国民党軍に家族を皆殺しにされ、孤児になったから紅軍に入った」なんて話は楽しいものではないからだ。

 そして聞かれた時でさえ、大春はなるべく深刻にならないように語るつもりでいたのだろう。それは、最初はひどく何気ない口調で、冗談まじりでさえあったことからも明らかだ。

 しかし「8歳の時~」と言った時、それまで笑っていた大春の顔が固まった。そしてその後は、淡々としかし止めることができない様子で、父母が、村人が殺されたことを語る言葉を紡ぎ続けるのである。いざ話し始めると過去の傷が開き始め、自分でも抑制がきかなくなってしまったようだ。

 そして最後にはとうとう泣き出してしまう。

Cap1057

涙をこらえられない大春



  竜紹鉄はなぜこれほどまでに、「生死をともにする絆で結ばれた」大春もまた、深い傷を負っているかもしれない可能性を考えなかったのだろう。

 お調子もので考えなし、明るくて単純明快、そして強い。大春は一見そのような人間に見えることだろう。

  それに加えて、地主階級の出身でエリートコースを進んできた竜紹鉄にとっては、大春のような無教養で「ごろつきのような」人間が、自分と同じような繊細な感情などを持っているなどといういうことは想像の埒外だったのではないか。



 無意識の中で、最も傷ついているのは自分であり、自分以外の者は自分ほど傷ついてはいない、とでも竜紹鉄は思っているのではないだろうか?

 竜紹鉄の過去や境遇は、確かにかなり悲惨だ。彼がひどくツライというのもよくわかる。

 だが、彼は自らその「可哀想な自分」に酔ってはいないだろうか? 悲劇の主人公であることに安住していないだろうか。

 その強情と冷淡という殻で身を守っているため一般的にはわかりにくいが、彼から出ている「悲劇の主人公」ぶったオーラは九児や林団長などは気づいている。

 九児や林団長はそれによって彼に同情を示すが、私はむしろ竜紹鉄自身が無意識のうちに「可哀想な自分」に酔っているようにも見える。

 「最も可哀想なのは自分」と認識し、その状態が本来ならつらいにも関わらずそこに安定や心地よさを見出そうとする者は、他人も自分と同じようにつらく傷ついているかもしれないということに盲目だ。だから大春に無神経でいられた。



 今までの竜紹鉄と大春の関係を振り返ってみると、逃亡兵を撃たざるを得なかった竜の気持ちを彼の立場に立って考え「とてもつらいと思う」と言って弁護したのをはじめ、中山条戦役で大敗した竜にやつあたりで殴られても彼が自分の殻に閉じこもってしまっても側につきそい支え続けた。

 そして竜紹鉄が悪夢にうなされていると知ると、それまで竜と九児の関係を嫉妬していたという「自分の都合」も忘れ、自分の傷が開くことも厭わず、まさにそうすることで竜の苦痛を分け合おうとさえ知った。

 だが、大春が竜を支え、その苦痛をともに分かち合おうとしていたのに対し、竜は大春に同じようなことは決してしなかった。それどころか、そんな必要があるとは考えたこともないだろう。

 大春もまた自分と同じように傷つけば痛いし、つらいときは支えが必要だということに気がつかなかった。さらに、戦争という過酷な状況で他人を思いやり支えることが(自分だってつらいのに)どれほど大変か思い至らなかった。



 こう書いてみると、竜紹鉄と大春の関係はなんなのだろう、とさえ思う。

 確かに竜紹鉄を支えるのは大春がそうしたいからそうしていることだ。だが、二人きりの逃避行を境に、竜は心を開き大春と心を通わし、この過酷な時代を乗り越えるためにともに戦う相手として大春の存在を望んでいる。

 だとすれば、一方だけが一方に与える関係ではいけないだろう。そんな状態が続けば、大春の方が耐えられなくんるだろうし、何より傷つく。



 遅ればせながら、大春の過去を知り、彼を泣かせてしまったことで竜紹鉄もやっと自分が「一番可哀想な自分」の殻に閉じこもり、大春を傷つけていたことに気がついた。

 そして、始めて自分から自分の過去を語りはじめたのである。
 

竜「・・・・・・・・・・・・俺の父親は元は軍官だった。小さかった時から、彼の俺に対する要求は厳しくて、早々と俺を軍校で学ばせた」

大春「・・・・・・」

竜「だが、今は父も母もこの世にいない。・・・・・・日本軍に殺された。すべての村人が殺された。俺の目の前で。・・・・・・俺は死体が埋められた穴から這い出してきたんだ・・・・・・」

大春「・・・・・・」

 ・・・・・・いまいち話がかみ合ってない気がするが、これは言わば、かつて悪夢にうなされる竜紹鉄の苦痛を分け合うために、大春が自分の過去の悲惨な出来事を語ったのと同じ手法と見ていいだろう。

 こういう手法が効果があるのか疑問では有るし、そもそも4年前に父母は死んだがそれまでは特に不自由なく暮らしていた竜紹鉄と、生まれた時から貧困で、十歳で孤児になり兵隊にならなければならなかった大春とでは、決して同じ「父母を殺された者同士」という論法にはならない。もし竜がそういうつもりでこう言っているなら、それは二人の溝を広げることにしかならないだろう。


Cap1034





 だが、大春の時と同様、ここで大事なのは竜紹鉄がこの告白を通じて何をしようとしていたかだ。

 竜紹鉄は今まで他人の傷に寄り添い、その苦痛を分け合うなどということはしたことがなかった。だから、それをしたいと欲してもどうしたらいいかわからない。

 そこで思い出したのが、以前、大春が自分の苦痛を分け合うとした方法だったのではないだろうか。

 竜紹鉄には大春を慰めるべき言葉も、今まで無頓着でいたことを悔やむ言葉もない。

 だから、大春と同じように過去を包み隠さず語る。そうすることで、自分が大春の痛みを理解しようとしていること、苦痛を分け合いたいという意思があることを伝えようとしたのではないだろうか?



 やっぱりちょっと的がはずれているかもしれないが、竜紹鉄が大春だって傷ついているのであり、彼が自分にそうしてくれたように、自分も彼を支えなければいけないことに気がついたのだとしたら、それは竜紹鉄にとって大きな進歩とも言えるかもしれない。

 
 

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