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2011年10月31日 (月)

『狙撃手』12話後半~13話 感想

 狙撃手12話後半~13話の感想です。あらすじはこちら



感想


 竜が助けてくれた大春をいきなり思いっきり殴ったのは、いろんな理由が考えられるが、やはり自分の命を助けてしまったことに対する怒りも確実にあっただろうな、と思う。あと本当にいろいろやりきれない思いがあったのだろう・・・・・・ぶつけられた大春はとんだ災難だが・・・・・・


 その後、すでに精神的にぼろぼろな竜にさらに追い討ちがかかる。

 黄河に身を投げた新兵たちの累々たる遺体が河の中にあるのを見つけてしまったのだ。

 竜は一人一人の名を叫びながら生存者を探すが、応える者はいなかった・・・・・・。

竜「李洪剛! 李全! ・・・・・・天よ・・・・・・」

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 彼の教官も長官もよくこう話していた。この種の心理的負担を負う必要はない、これは戦争だ、流血も死も勝利への道の途中にあるものだ、と。しかし、何故、このような戦争が必要なのか、何故、このような若い愛すべき命が失われなければならないのか、彼らは一度もその理由を言ってはくれなかった。(小説版P122)


 私に勧められて(笑)このドラマを見たとある知人がブログ(現在は閉鎖)でこれらの場面を「一人ではとても耐え切れない体験」と書いていたけど、まさしくその通り。ここでなぜ竜が部隊とはぐれて大春と二人にならなければならなかったか・・・・・・その理由の一つはおそらくあのまま一人で部隊に帰っていたらどっちみち竜の精神は耐え切れなかっただろう。大春がしばらくとは言え、無言で付き添い、呆然自失状態の竜を守っていた時間があったから、立ち直るのはさすがに無理でも竜の心は何とか耐えられたように思える。

 ただ、大春だって今回の件はいろいろキツイものがあったはずなのに、竜はまったくそのことに頓着していない。それどころか、自分のつらさややり場の無い感情を暴力で大春にぶつけてしまっている(TV版では2回だったが、小説版では3回も容赦なく殴っていた)。

 さすがに殴られれば大春だって殴り返すが、それでも見捨てたりはせず、むしろ彼のつらさを受け止めてやる。今回はあまりに悲惨な体験をした直後だから仕方が無いが、問題は今後も二人の関係にそのようなパターンになってしまったことだ(さすがに暴力は振るわれないが)。・・・・・・これは大春にはちょっときついんじゃないかと思う。


 ともかく二人きりになったことで竜にはちょっと救いがあったが、おかげで新兵たちの遺体を目撃してしまうという更なる打撃も受けてしまう・・・・・・しかし、石頭が奇跡的に蘇生したことで、彼の精神は何とか崩壊を免れる。もうここで竜が石頭を抱きしめるシーンが切ない。


 しかし、蘇生した石頭の中では大きな変化が起こっていた。

 竜と大春はたまたま行き会った日本兵たちを倒したが、そのうちまだ死に切れなかった一人を石頭は憎悪の感情にまかせたままにめった打ちにしてしまう。幼く純粋でけなげだった石頭を戦争はこんなふうに変容させてしまった、という所で12話は終わる。



 ともかく数人の日本兵相手に一部隊が逃げ出した国軍が逃げ出したことに怒った大春は、つい熱くなってある失言をし、竜の逆鱗に触れてしまう。

大春「大少爺、石頭も……おまえら二人とも八路軍に来いよ、なあ? おまえもあんなダメな中央軍にいるのはうんざりだろ。あんなすぐに逃げ出す連中じゃ、そりゃ戦えば負けるよな。俺らの八路軍は装備は貧弱だけど、民衆の支持を得ている常勝の軍だ。大少爺、どうだ?」

竜紹鉄「……少なくとも俺達の国軍は、「遊して撃たず」とは言われないがな」

大春「……大少爺、俺だってこんなこと言いたくないけど言わせてもらうぞ。おまえらのあの蒋委員長が掲げている『曲線救国』、あれはなんだ! 『曲線』してばっかでどこにも『救国』なんてないじゃないか! 日本軍とよりも味方同士で戦うほうが多い。……石頭、おまえも聞いたことがあるだろう。三十人の鬼子に追われて、おまえらの国軍は一師団が命からがら逃げ出したってな。それに、一千人の国軍の捕虜を連行する日本兵は二人だけだって言うのに、抵抗はおろか逃亡しようって奴も一人もいなかったとも聞いたぞ! まったく本当に中国軍人の面汚しな連中だ」

(竜紹鉄、無視して石頭を連れ歩き出す)

大春「おい、何とか言えよ。……話を戻すけど、おまえらの段旅長は確かに立派さ。抗日英雄だし、俺も尊敬している。でもあんなどうしようもない中央軍の中にいるんじゃ、天下の英雄だって遅かれ早かれ負けるさ。なにしろおまえらの中央軍は、各派で相争ってばかりで、口では抗日と言いながら実力を保存し、国家の利益を賭博の点棒みたいにしちまっているからな。こういうのを「無恥」って言うんだ。あの可哀想な学生兵たちもとんだ無駄死にだ!」

(竜、立ち止まって石頭に銃を預ける)

竜「(静かな口調で)………………石頭、持っていろ」

 この直後、竜は渾身の力を込めて大春に殴りかかり、怒り狂った大春も応戦。今までも何度も二人は対立したが、この時は互いに相手を死なせてもかまわないような勢いで殴り合った(このあたり、監督から「徹底的にやれ」と指示されてたんじゃないかと思うくらいの迫真ぶり)。

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容赦なく取っ組みあう二人


 八路軍の悪口を言われた大春は「老党員であり、老紅軍である彼には他人が自軍を誹謗することを絶対に許すことができない」といろいろ言い立てたわけだが、さすがに傷心の竜に対して言い過ぎであった。特に学生兵たちを「無駄死に」と言ったのは失言だっただろう。

 竜が大春の言うことを無視し続けたのは、彼の中央軍への批判は彼自身も心の片隅で思っていたことだからではないだろうか。しかし、さすがに学生兵のことを大春が口に出したのは我慢ができない(でも、8話であれほど必死に自分を助けてくれた大春に対してこんな振る舞いはやっぱりダメだと思うが……)


 激しい争いは結局、もう相手を撃つしかないような段階までいってしまった。

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衝動的に相手に銃口を向けてしまう二人 

 このあたり互いが互いに自分で制御できないとこまで行ってしまって、銃を向け合うに到って自分の行為に呆然とするもののそれでも銃を下ろすことができない、というのが何だかいろいろ暗示的だ。


 それでも最悪の事態にまで突き進む寸前で、竜が先に激情を収めた。その後、泣き叫ぶ竜を見て大春も改めて竜の傷と自分の失言に気づいたのではないだろうか。

 大春は信念を持ち、また考えるより先に動いてしまうことも多い人間である。そのため7話で竜を罵ったり、今回のように思わず失言をしてしまうこともある。だが、彼は冷静にさえなれば、ちゃんとあることに気づく。

 彼が、口にしたような批判を中央軍に対して持っているのも、そのため学生兵たちが「無駄死に」だと思っているのも事実だろうし、彼はまたの自分の考えが間違っているとは思わない。容易に信念を曲げはしない。だが、例え正しいことでも言ってはいけないことがあり、まさしく今の竜に対してあんなことを言ってはいけなかったことに気づいたのだと思う。だからこそ、先に殴りかかってきたのは竜であったにも関わらず、大春は別れ際に「おまえに借りができたな」という形で彼が先に銃を下ろしてくれたことに笑って礼を言ったのだろう。


 大春は今までもたびたび竜に八路軍に入るよう誘っていた。しかし、彼はそう誘うのは、この時が最後となる。

 竜のことを深く理解してしまった大春は、決して彼が段旅を捨てないことをも理解してしまったのだろう。そしてまた、竜と一緒の陣営で戦いたいとは思うが、それならば竜が国軍から八路軍へという方法だけでなく、大春が八路軍から国軍へ行くという方法だってある。しかし、大春にとってそんなことはとてもできないことであり、それは竜にとっても同じだと気がついたのかもしれない。なのに、陣営を変えるよう竜にばかり要求を突きつけていたのは不公平なことであった、と気がついたのかもしれない。


 こうしてこれ以後、大春は二度と竜を八路軍に誘わなくなり、竜もそれぞれの部隊に戻る別れの時、心中で

「彼と私の政治的立場は完全に違う」

と言う。


 だが何もそれは悲観的に考えることではないかもしれない。


 今まで竜を八路軍へ誘っていた大春は、彼を好ましく思いながら陣営が違ううちはいま一歩のところで分かり合えない(だから同じ陣営になりたい)と思い、竜も大春の好意と恩を受けながら違う陣営に属する彼にあまり心を傾けてはいけないとばかりに距離を取ろうとしていた。つまり二人とも、陣営が違ううちは通じ合えない、と思っていたふしがあるのであり、互いの距離が縮まらない理由を「政治的立場の違い」に求めていたと言える。


 だが今回、竜はお互いの違いを認めながら、同時に心中で


だが、俺が困難に陥った時に最も信頼すべき相手


と、大春への確かな信頼を語った。それは、属する陣営を異にしたまま、それでも二人が互いを信頼し好意を抱くことはあってもいいのではないか、ということに思い至ったのだと思う。
 

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何かを悟った様子で国軍に戻る竜 


 そして、それは竜と笑顔で別れ八路軍に戻った大春も同じ気持ちだったのではないだろうか。

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八路軍に戻る大春 


 二人が至ったこの考えは、相手を自分の側の論理に引き込むことなく、違いを違いのままにしていても、心を寄り添わせることは可能だということを示している。




ピックアップ場面



芥川という人物


大野「竜紹鉄の射撃がいくらすごいからと言って、奴一人に何ができるって言うんだ?」

芥川「……連隊長、中国の歴史を少し勉強すれば、そんな軽々しいことは言えません・・・・・・中国の諺にこういうのがあります。野火焼不尽、春風吹又生。野火に焼かれても草はなくならない、春風が吹く頃にまた生えてくる

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大野に中国人の不屈を語る芥川


 いつも中国人のことを腰抜けだのなんだの侮蔑する大野は、芥川がまだ何かを憂慮していることを理解できない。そんな大野に芥川は中国人が不屈であることを説くのである。


 芥川の中国人に対するこのような理解は、おそらく当時としては相当異質な観点ではないだろうか? だが実に的を射ていると言えよう。「少し勉強すれば」と言うが、彼の中国に対する理解はかなり深く、また大野のような多くの日本軍人のように中国人も中国軍も決して侮らない。さらに彼は中国で戦うに当たって歴史のみならず言葉も学んできている。

 実際、段旅内に放ったスパイに大野が不信感を覚える時も「私は中国人を理解しています。この人物は決して我々を裏切らない」とまで言ってのける。


 一見すると「親中派」と言ってもいいくらいだが、彼はその一方で決して中国に情を持ったりもしないのである。何とも複雑な人物である。また相手を対等な(そして不屈の精神を持った)手ごわい相手と認識しているため、中国軍に対して一切手加減をしようとしない。


岡崎「少佐! なんで(学生兵たちを)撃たないの?」

芥川「あの学生兵たちは完全に抵抗能力を失っている。標的に値しない」

 そして、狙撃手のプライドのためなのか彼は戦場でも未熟な学生兵たちは撃ったりしない。


 その一方で、狙撃兵の育成のため中国軍の捕虜を生きた的として使ったりもするのである。それは彼の残虐性の発露と言うより、訓練のためには生きた人間を標的にした方が効果的だという「合理的」な判断であるように見える。それはただ単に「残虐」であるよりよりいっそう恐ろしい。

 
 と、このように芥川は余人には容易に理解しがたい(そして理解を望まない)独自の規律を持っており、ただその自分だけの規律に従って動く人間であるようだ。そんな芥川がドラマの影の主役と言われ、中国でも物議を醸したのは当然であろう。


 しかし、中国人を深く理解する彼は根本的な疑問に気づかなかったのだろうか? 「野火に焼かれても草はなくならない。春風が吹く頃にまた生えてくる」というのが中国人、と言っては語弊があるなら「当時の中国の抵抗」の真髄だとしたら、そんな彼らにどう勝利するつもりでいるのだろう。彼が任務に埋没するのは、中国への深い理解とそんな彼らと戦う(決して彼らに対し勝利得ることのできない)日本軍の自分という矛盾から目をそらすためではなかろうか?




対照的な二軍


 竜と別れた後、大春は自分を探す九児たちと再会し、互いに無事であったことを大いに喜びあう。

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再会を喜びあう大春と九児たち


 その直後、場面は変わって新八旅に帰ってきた竜は生還を喜ばれるどころか、「君が戻ってくるとは思わなかった」とかえって文軒にスパイの疑いをかけられ取り押さえられる。

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帰ってきたらスパイ容疑で取り押さえられる竜 


 大春と竜紹鉄、二人の人物の置かれた環境の違いが鮮明に描かれていておもしろい。




泣き虫参謀長。


 学生兵たちの中で唯一生還した石頭は皆に生還を歓迎される。銭国良が泣いて彼を抱きしめたのはもちろん、文軒参謀長までもが、彼の肩を抱き皆の前でこらえきれず涙も流してしまう。彼もまた学生兵たちの犠牲をひどく悲しんでおり、せめて石頭だけでも帰ってきてくれたことを心から喜んでいるようである。

・・・・・・こういう場面を見ると、この人、根はすごくいい人なんだなぁ~、と思う。

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思わず泣いてでもそれを隠そうとする文軒


 まあ、その直後、あいかわらず気の立っている竜をスパイ扱いして殴り飛ばされ(笑)、

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↑のようなことになってしまうのも、まあ、文軒らしいと言えば文軒らしい。

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