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2011年9月 7日 (水)

『建党偉業』レポ2(タイトル詐欺映画)

 長らく中断していてもはややる意味があるのか不明ですが、まあDVDも発売され日本でも買えば見られるようになりましたので、『建党偉業』のレポ第二弾に行ってみます。前のは記事は『建党偉業』が意外とおもしろかった(そして蒋介石はナースシスターだった)を参照ください。

 ちなみにDVDは↓で買えるようです。

http://www.frelax.com/cgilocal/getitem.cgi?db=book&ty=id&id=JDWY395380

http://www.quick-china.com/movie/detail/dj18805.html

 ところで、この映画日本では(というか中国含めて世界中でだろうが)上映前から「国策映画」と評されている。まあ、それに特に異論もないし、実際に『建党偉業』なんてタイトルみたら中国共産党の建党の歴史を描き愛党精神を涵養する映画と思うだろう。

 こちらでも「1911年の辛亥革命から1921年の中国共産党成立までの歴史を、李大、陳独秀、張国、周恩来、蔡和森、向警予など最初期の共産党員に焦点を当てつつ描いた超大作映画だ」(中国版wikiの記述を元にしていると思われる)なんて紹介されている。

 で、実際に見てどうだったかと言うと・・・・・・

  • 建党の歴史→描いてねぇぇーー!!
  • 最初期の共産党員→もっと描いていねぇぇーーー!!

 ・・・・・・え~と、確かに李大釗や陳独秀は出番多かったけど・・・他の人はそれほど・・・・・・あれだったらよっぽど袁世凱に焦点が当てられてるわ~。しかも建党の歴史って映画の最後の方にオマケ的にちょっと出てきただけでしょ? ほとんどの最初期の共産党員って映画の終わる少し前にまとめて出てきただけじゃん。

 もうタイトルは『建党偉業』じゃなくて『中華民国初期10年』の方がよっぽど正しいタイトルだと思う。わざわざ『建党偉業』なんて国策映画丸出しのタイトルつけるから、客が来ないんだよ・・・・・・

 まあ、それはともかく続きです。5.4運動が終わったあたりから行ってみましょう。例によってだいぶ記憶が薄れているので、話の筋や前後が正しくない場合もあります。





・さて、このへんいまいち流れがわからんが、学生たちの運動によってなにか一定の成果が得られたらしい。

 喜び踊る学生たち。しかし、陳独秀は「君たちはこれが勝利だと思うのか!」と大いに不満な様子。

 思い余った陳独秀は「世界」という歓楽施設の上からビラをばらまく(「世界市民宣言」とかいうビラだったかな?)。警察に逮捕され牢屋にぶちこまれる陳独秀。


 しかし、陳独秀が捕まっても彼と李大釗から初歩的な共産主義の教えを受けた学生たち、張国涛や毛沢東は工場に赴き、工場の労働者たちを相手にプロレタリア革命について語る。

  中国では工場労働者たちを「工人」と言うが、陳・李の学生たちは「工」と「人」を上下に組み合わせると「天」という字になることを示し、つまり「工人」とは「天=労働者こそが世界の主人公」であることを説く。この説法はいろんなドラマや労働運動の記念館で見たことあるから、たぶん当時一般的に用いられていたのだろう。

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労働者たちを前に演説、わかりやすく機関車がある


 ここでこの映画の流れを見てみると、まず「孫文や蔡鍔など一部のエリートや開明的軍人が革命を主導する」→「5.4運動によって学生や都市ブルジョアジーが革命の主体となる」→「さらに社会の底辺にいる都市労働者階級に革命が普及していく」という初期中国革命の流れにはっきり沿っているのがわかる。エリート主導から大衆的国民的運動へ、異論はあろうがおそらくこれが初期中国革命のオーソドックスな史観であり、そしてこのような下地があってこそ共産革命へ繋がっていくというわけだ。このような流れを自然に理解させているという意味でもやはり教育的な映画である。


 そして牢から出てきた陳独秀は、李大釗に君は不自由な北京より上海で活動すべきだと提案され、上海へ行くことに。




・さて、実はこの段階で映画はそろそろ終盤だ。しかし、何かおかしい、誰か足りない・・・・・・あ・・・・・・


周恩来が出てきてない!



 5.4場面が終わったあたりからおかしいと思っていたが、そろそろ「もう映画が終わっちゃうよ」と焦る段階になって(それを言うならもうすぐ終わりなのに「建党」する気配もない、しかも初期共産党員さえほとんど出ていない)やっと周恩来が活躍した「天津」の場面が来た。案の定、警察に学生たちが逮捕されており、その中にやっと陳坤演じる周恩来が出てきた。

 捕まった学生周恩来らは抗議のハンガーストライキ。困った警察官はバカなことをしてないで食事しろと説得しに来るが、周恩来はじっと警察官の顔を見て反論する。反論はともかく警察官は周恩来に見つめられて顔をそらせられない。周恩来は二言、三言喋っただけだが、なんか説得される警察官。

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・・・・・・確かにこの見つめ方は破壊力あるわ~

 ここで「周恩来は逮捕されても牢屋の中で警官にマルクス主義を説き~」とかいうナレーション(字幕)が入るけど・・・・・・いやいやいや、警官は周恩来の顔しか見てませんでしたから! 絶対、説得じゃなくてその顔の美しさにたらしこまれたほだされたようにしか見えんかったが。

 警官が去った後、他の牢に捕まっていた女学生に「まあ、ちょろいもんだよ」的なちょっと黒い笑みを浮かべていたのが印象的。


 で、驚くべきことに周恩来の出番はこことパリで新聞読んでいるシーンだけ! たぶん時間にして3分にも満たない! 

 おいおい、宣伝ではレギュラーのような扱いだったのに。どこが「李大、陳独秀、張国、周恩来、蔡和森、向警予など最初期の共産党員に焦点を当てつつ」だよ(それでもいつ出てきたのかまったくわからない向警予よりはマシだが)。ポスターにだってけっこう大きく出ていたじゃないか・・・・・・5.4運動以前にこれらの宣伝を信じ陳坤目当てで見に来た華流ファンの女の子たちが暴動起こすレベルだぞ。



・ともかく目覚めた学生たちは次々と海外留学を目指す。勤工険学運動時代の到来。

 いつの間にそんな展開になったのか、フランス行きの船に乗るため港へやってくる毛沢東や蔡和森。その港にたぶんやって来た陳毅。たぶんと書いたのは、おそらくあそこで船に乗り込んだ青年は陳毅か聶栄臻だと思われるが、何しろ劇中で誰だか全く解説がないものなので・・・・・・。後でネットの解説見たらやっぱりあれは陳毅だった。それにしても、くどいようだが船に乗り込むだけの登場のどこが「焦点を当てつつ」なんだろう?

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この役者さん演じる陳毅、もっと見たかったのに!

 そして船に乗り込む寸前で「やっぱりフランス行くのやめた」と言い出し帰る毛沢東。蔡和森は「おいおい・・・・・・」となるもののなんかそういう毛沢東に慣れているのか、「お金ないから路銀ちょうだい」とまで言い出す毛沢東に「しょうがねぇな~」とお金も貸してあげる。・・・・・・蔡和森も苦労させられてきたのね。しかし、どう見てもその金額じゃラーメン2杯分くらいしかないようなはした金だ。



・楊開慧の父で自分にとっても師にあたる楊先生が危篤に。駆けつける毛沢東。楊開慧の兄というレアな存在が映画に登場。おいおい、これもくどいようだけど、こんなレアな人の出番と他の中共幹部の比重があまり違わないってどういうことだ?

 今まで何をするべきか右往左往するばかりで、結局図書館で本読むかデートするしかしていなかった毛沢東もここで「先生、私はやっと自分が何をするべきかわかりました」と語りかける。でもこの後も特に何もしていないので、結局「何をするべき」と思ったのかは映画ではわからずじまいだった。



・で、このあたりの展開が全くわからないのだが、唐突に中国共産党が結成されることになった。映画も残りわずかになってやっとタイトルに近づいてきた。


 でもとりあえず陳独秀がソ連人と会談したり、劉少奇らがソ連に行ったりしている描写はあるのだが、やっぱり何で結党されることになったのか流れがわかんない。どうせなら、中国各地で起きていた共産主義小グループ結成やパリの少年共産党の結成の動きとかも描けばいいのに。『建党~』ってタイトルなんだし・・・・・・そうすれば武漢組の話で林彪とそのお兄ちゃんズの話や、パリに行ったみんなの話が見れたかもしれないのに!

 そして、ロシアに行った劉少奇たちだが、クレムリン宮殿がまたルイ十四世のベルサイユ宮殿もかくやというぐらい豪華絢爛。そんな中で各国共産党員を前に演説する劉少奇・・・・・・だけど演説のセリフは別になくて、終わった後、みんなの前でこぶしを突き上げて「ゥウーラァァー!!(ロシア語で万歳)」これは笑える。



・そしてやはり何だかよくわからないうちに上海で第一回中国共産党大会(結党大会)が開かれることに。やっぱりいつの間にそうなっていたのか知らんが湖南の共産グループのリーダー的存在になっていた毛沢東は湖南代表として新妻の楊開慧を残して上海へ。


 開催場所はフランス租界内のメンバーの一人(調べたら李俊漢)の家。また、メンバーの李達の奥さんでみなの世話をする女性はメガネっ娘。そしてやっと登場する(映画の主役組はずの)第一回共産党大会のために各地から集まってきた13人の男たち(当時の共産党員は全国の党員合わせて50人程度だったはず)。

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夫婦揃ってメガネ

 その中の一人、陳公傳も奥さん連れでやってきた。新婚なのに楊開慧を置いてきた毛沢東は、「何だよ、奥さん連れてきてよかったのかよ」と言い、「いや(本当は)だめだろ」と他のメンバーから無言(ジト目)でつっこまれる。

 顧問としてコミンテルンからマーリンと他1名(名前忘れた)も参加。「マーリン」は中国語だと「馬林」と書くのね。ずっとロシア人だと思っていたけど、調べたらオランダ人だった。ちなみに李大釗は、何かコミンテルン側と意見の違いがあったようで、会議を円滑に進めるために出席を遠慮したらしい。


 なにはともあれ、みんなで集合写真。『建国大業』でもそうだったが、この監督はやたら集合写真を撮らせるのが好きだ。

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なにはなくとも記念撮影です


 ところで、かなりどーでもいいが、部屋の中の描写ばかりでこの第一回大会の場所となった「石庫門造」住宅の外観が映されなかったのが、納得いかん。この「石庫門造」というのは上海名物の住宅建築様式で、なかなか渋い魅力のある建物である。『建党偉業』なんてこの住宅の建築美を移しだしてナンボのもんだと思うんだけどね(ちなみに大会の場所となった住宅は保存されている)。

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建築美の中共一大跡


・ともかくも大会は順調に進み、残すは最終日、結党宣言と綱領の採択だけとなった。しかし、共産党結成の動きはフランス租界内の警察に察知されてしまう・・・・・・。


 最終日の一日前、ホテルへ戻るマーリンともう一人は尾行されていることに気づいた。とりあえず気づかないふりをして人力車(当時のタクシー代わり)に乗ったものの、尾行者はなおつけてくる。

 このまま泊まっているホテルに戻ったらまずいと判断したマーリンらは、車夫に5分後に裏口で待っているように指示して、適当なホテルに入りやりすごすことに。しかし、尾行者もホテルの中まで入ってきてしまった!

 あくまで自然な行動を装うため、仕方なくそのまま部屋を取ることにしたマーリンたちはフロントへ。

マーリン「部屋は空いているか?」

フロント「・・・・・・え、あ、あの男性お二人でご宿泊ですか?」

マーりん「!!」

よく見たらそのホテルはそっち系のホテルだった!マーりんらも困ったが、一般時人を装ってホテルに入った尾行の男二人もこれは困った!




すいません、嘘です(「・・・・・・え~」の後から)


 と、いうわけで何とか追手をまくために、二階に部屋を取るマーリンたち。一般人を装う尾行者も隣の部屋をとるが、マーリンらは平静を装って自分らの部屋へ。

 そして、部屋にはいるなり、窓を開け二階からダイブ! ちょうど言いつけ通り裏口の前にやってきた車夫の前に降り立つ。ここはいっそ「マーりんダイブ」とでも名づけたい飛び降りっぷり。

 呆気に取られている車夫に対し、飛び降りたマーリンは悠然とスーツの誇りを払い、何事もなかったように人力車に乗り込む。さすがコミンテルンの男は違う、と思わせるような華麗さである。どちらかと言うと、飛び降りた後、スーツの乱れを直す様は「英国紳士」っぽかったけどね。

 しかし、もし飛び降り時に足でも痛めて動けなくなったら、危うく男二人で飛び降り心中(二階から?)かと誤解されるところだったな。




・さて、マーリンたちは危機を脱したが、今度はメンバーたちとは別の場所に宿を取っていた陳公傳夫妻に魔の手(らしきもの)が!


・・・・・・・・・・いやぁ、ぶっちゃけ危機でもなんでもなかったんだけどね。あんまりにも痛々しい展開になったので割愛させてもらいます。映画的にもすっごい滑りまくっているシーン。もっと何とかならなかったのかい。

 そりゃね、最終日に警察に踏み込まれるというトラブルはあったものの、この第一回大会がラストなんて映画として盛り上がりに欠けることこの上無い、というのはわかる。会議開いて、集合写真撮って、インターナショナル歌うだけだもんね。よっぽど袁世凱と蔡鍔の護国戦争や5.4運動の方が盛り上がっていた。でも、共産党成立90周年映画という関係上、まさか5.4運動で終わるわけにはいかなかったのだろう。なので、歴史改変しない程度にトラブルを起こそう、という制作サイドの努力はわかる(私も以前歴史同人でやった)。

 (もしかしたら史実通りかもしれないが)でも追手に追われるマーリンはそれなりに楽しめたけど、陳公傳の扱いはひどいよ。・・・・・・確かに彼は後に対日協力者になるが、でも張国濤だって林彪だって「過ちを犯す」前の時代が舞台なら好意的に描かれるのに、ここまで貶めなくても・・・・・・



・と言うわけで、陳公傳夫妻は、最終日を欠席して広州(広東代表だった)に帰ってしまった。結局、マーリンも(外見的に)目立ちすぎるとのことで、出席を見合わせ。


 残ったメンバーで最後のシメに入ろうとしたところ、突然訪問客が。

 家を間違えてふりをしながらも、中の様子を探ろうとする客を応対に出たメンバーの一人(この家の主)がすばやく扇でシャットアウト。あいかわらずみなの動きが芝居がかっている。

 謎の客は帰ったものの、危機を感じたみなは急いで会議文書を隠す。そこに警察が踏み込もうとして、家主の夫妻を残して地下へ隠れる・・・・・・あれ? 警察が踏み込む前に脱出したんじゃなかったっけ?

 落とした文書が警察に見つかりそうになるものの、なんとか家主夫妻の対応で警察は引き取る。しかし、もうここで会議はできないので、参加者たちは場所を移すことに。



・新たな会議場所は湖(浙洪省嘉興南湖)に浮かぶ船の上。

 で、もうこの湖の風景が美しいのなんのって。霧の立ち込める湖に浮かぶ一隻に船・・・・・・あまりの美しい映像美に脱帽。と言うか、南湖の風景美の勝利です。


 その船の船室の中で男達は会議を続けているわけだが、その外、甲板の上では例の李達のメガネの奥さんが華麗なチャイナドレス姿(え? いつ着替えたの?)で優雅に唐傘をさし座っている。

 そして船室内では、無事会議も終わり、みなでインターナショナルを歌うことに。

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船の上で会議の続き

  船室の中から聞こえてくるインターナショナルで、船べり女性は会議が無事終わったことを察し、微笑みながらゆっくりと立ち上がる・・・・・・・その姿に後光がさし・・・・・・

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共産党第一回大会にメガネっ娘の女神が降りてきた!!!


 いや、もうこの時の彼女もまた美しいのなんの、神々しいのなんのってハンパじゃない。登場した時は、ちょっとダサい感じもする奥さんだったのに、今や何かの女神のような神々しさだ。後光さしているし。


 ・・・・・・それにしてもいきなりなんで脈絡なくこんな演出を、と思ったが、もしかしてチャイナドレスを身にまとって、船室の男達を微笑みながら見守るこの女性は「祖国・中国」のメタファーのつもりだったりするのだろうか?


 なんにしろ、こんなに神々しいメガネっ娘にお目にかかれる機会は貴重だと思うので、メガネっ娘萌えはこのシーンのためだけでも映画を見に行くべき、と断言してみる。




・というわけで、共産党結成のニュースは中国全土どころか遠くパリの留学生たちの元へも届く。

 新聞を読む周恩来、そしてその隣には鄧小平。



鄧「先輩、なに飲んでるんですか? 俺も同じの頼みます」

周「ん? だめだよ、これはエスプレッソ。大人の味だから小平にはまだ早いよ。ほら、ミルクたっぷりのカフェオレおごってあげるから」

鄧「もう、また俺のこと子ども扱いして!」



 

・・・・・・・・というシーンがなぜ存在しないんだ映画スタッフ!! パリまで何をロケしに行ったというのだ!!!(すいません、小平のセリフから後が嘘です)


 まあ、実際、戦争シーンは沈東監督、5.4運動シーンは陸川監督と専任監督がいるのと同じく、海外シーンにも専任監督がいるらしい。・・・・・・・でもべつに前者二つとは違い、専任の必要があったようには思えんな。そもそも豪華絢爛のクレムリン宮はともかく、日本とパリは海外ロケ自体なんの必要があったのか不明だ。セットでいいやん、あんなの。



・そしてその後、国共内戦やら日中戦争やらが起こって30秒で建国

 ・・・・・・・・・・・・と、まあこんな感じ。中盤から終盤にかけて盛り下がるという不思議映画でした。





人物評

 いいかげん長くなりましたが、歴史人物の描かれ方にもちょっと触れてみる。この種の映画では現代中国のその人物に対する評価、あるいは今後どのように評価すべきかを国民に示す指標として人物が設定されていると思う。歴史研究jの結果として映画の人物設定がある、と言うより、映画の人物設定があって歴史学研究の流れが作られると言った感じだろうか。ゆえに誰がどのように描かれているかはチェックポイントの一つだろう。・・・・・・まあ、私のチェックポイントはアレなんだけど・・・・・・。



毛沢東

 この映画の真・ヒロイン映画ポスターからしてそういうポジションに見える。一時期、毛沢東の初恋役の湯唯の出番が削られたことが話題になっていたが、いや、ヒロインは二人もいらないからじゃねぇ? と思わなくもない。

 私は常々、最近の革命ドラマや映画にて毛沢東(特に若い頃)の脱偉人化が進んでいる(進みすぎて脱偉人化と言うより毛沢東のお姫様化が進んでいる)と思っていたのだが、この映画はその一つの到達点に達したのかもしれん。

 実際、この毛沢東と恋人で最初の妻である楊開慧とどっちが頼りになりそうかと言えば、迷うことなくちょっとボーイッシュな楊開慧だ。私の見間違いでなければ、危篤状態の楊開慧の父の手を二人が握るシーンで、毛沢東の手の方が楊開慧より細くて白いように見えた。



 
華流スター・劉燁が毛沢東を演じることは何かと話題になっていたが、どうしてどうして実際に映画になったら姿形もなかなか毛沢東に似ていたし、まずまずの役だった(ただ、私は個人的には劉燁=毛沢東がちょっと人工的すぎる感じがして受けつけないのだが)。

 ともかく劉燁=毛沢東は線が細すぎて、色が白すぎて、可憐すぎて、触れれば折れてしまいそうで、まさしく「お姫様」である。イメージは白雪姫だね。


 しかもヒロインはヒロインでも大昔の何も行動しなくても許される時代の映画のヒロインっぽい。実際、映画の中で毛沢東は右も左もわからずオロオロしてばっかりして、何も行動していない。


 しかし、一見ポッ~としているようなキャラに見えて、実は溢れる才能を秘めているという設定らしい。要所要所で毛沢東は、余人には思いつかない斬新で冴えた意見を突然言い出し、それを聞いて周りは「おお、潤之、君はなんてすばらしい意見を言うんだ!」と驚くというパターン。・・・・・・って、それなんて不思議ちゃん?

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とーとつに出てくる冴えた意見で皆を驚かす毛沢東

 そして映画でそのとばっちりを受け、完全に毛沢東の引き立て役となってしまった可哀そうな人物が、毛の親友・蔡和森だ。彼のポジションと言えば

・一般的な意見を言う→毛沢東がすんばらしい意見をポツリと言う→毛の意見のすばらしさが引き立つ。

・毛沢東がすばらしい意見を言った後、ちゃんと「それはすごい」的に驚いて、観客にもそれがすばらしいアイデアであることを理解させる

 ・・・・・・ひでぇ、絶対この時期だったら毛沢東より蔡和森の方が理論家として上なはずなのに。蔡和森の意見も悪くないけどあくまで「秀才」の限界を超えられないもの、対して毛沢東が天然でそれを超える意見を出せるのは「天才」だから、って位置づけなのかね?


 ちなみに劉燁=毛沢東に関しては、こちらが百合の花のイメージと絡めておもしろいエントリーを上げている。それにしても、毛沢東に百合の花のイメージが添えられる日が来ようとは夢にも思わなんだ。





・周恩来

 驚異的な出番の無さだった周恩来。(歴史認識的に)なにかあったのか、と思うくらいの出番の無さだった。華流スターの陳坤を周恩来に起用して、ばんばん宣伝かけていたのは、あれは人寄せパンダ的なものだったのか。


 ところで、この陳坤は2009年の『建国大業』では蒋介石の息子の蒋経国を演じていた。陳坤=蒋経国は『建国大業』の実質的な準主役と言ってよく、崩れゆく中華民国を支えようと必死に動きまわり(しかもそれがむなしい行為だと本人もわかっているらしい)、蒋介石との父子の確執もあって、なかなかの好演だった。

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陳坤演じる蒋経国@『建国大業』

 しかし、おかげでその印象が強くなって、上映前の予告ポスターを見てもどうにも周恩来が蒋経国にしか見えなくて困っていたが、実際に見たらちゃんと蒋経国とは別人に見えた。

 『建国大業』の蒋経国は父に認められず実は自分に自信が無い、それでも父のためにがんばるけなげなキャラとなっていたが、『建党偉業』の周恩来は自分の顔の効果を知り尽くしてあらゆる人を説伏できるかのような自信に満ち、ちょっと(?)腹黒な若者というキャラで(まあ、蒋介石と経国の父子関係も微妙だけど、実際の周恩来の父子関係も相当悲惨だけどね)、混同することはなかった。やはり牢番を篭絡した後のニヤリ笑いがいいねぇ。

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陳坤演じる周恩来@『建党偉業』





・鄧小平

 さらに出番が無かった鄧小平。せっかくのパリロケなのに、ガリ版を刷っている姿もクロワッサンを食べている姿も無かった。しかし、宣伝(?)の画像では↓のようなものが。

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 野菊(たぶん?)と鄧小平! なにこれ可愛いぃぃ~!! 思わず、そのお花は周恩来に上げるのかと思いたくなる。しかし例によって本編にはこんなシーンは存在しない

 この絵に限らず、鄧小平役の俳優さんのかわかっこよさは異常だ。かなり斬新な、でもウケそうな鄧小平が演じられただろに・・・・・・なぜ出番が無い? ↑上の陳毅と周恩来も合わせてパリ編撮ってくれませんか、中国政府。

 残念なので使われなかった「お花と鄧小平」の代わりに深セン市にある看板の写真「ハイビスカスとジジイ」を貼っておく。

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 着ている服をアロハシャツとかに替えると、定年後の老人をターゲットにした観光ポスターになりそうだ。


 それにしても、毛沢東=百合、鄧小平(若)=野菊、鄧小平(ジジイ)=ハイビスカス・・・・・・か、いったい昨今の中国はどうなっているんだ?






・陳独秀&李大釗

 映画中盤から後半の主役だった二人。大晦日に二人で火鍋を食べる仲です。


 ところで、実は共産党建党80周年の2001年にも『開天僻地』というもっと誰が見るのかわからない記念映画が作られた。この映画の主人公は実質、陳独秀と李大釗だった。『建党偉業』の二人も悪くなかったが、(映画としての出来は落ちるが)私は『開天僻地』の二人の方が好みだ。

 まず、陳独秀の過激度が違う。陳独秀はビラを巻いて警察に捕まるが、『建党』ではおとなしく捕まるのに対し、『開天』では捕まったあと警官に殴られると速攻で思いっきり殴り返して罪を増やしている。このやられたら後先考えずやりかえす殴りっぷりが良い。

  また、釈放された後、陳独秀は正体を隠し密かに北京を出て上海に向かう。李大釗は(北京大学の教授なのに)自ら馬車夫に変装し、陳独秀を馬車に隠して北京脱出を試みる。

 しかし、『開天僻地』では関所(?)で関守(?)の男に陳独秀が怪しまれてしまう。怪しまれているのにふてぶてしい態度のままの陳独秀。李大釗は北京大学の教授という身分も省みず、粗野な関守にへりくだりこの場を取りつくろうとする。そんな李大釗の必死に努力にまったく協力せず、関守を怒らせる陳独秀! いや、おまえのためにやっているのだが?

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隠密行動なのに騒ぎを大きくする陳独秀(場所上)と必死に間に入る李大釗 (右端)

 陳独秀のせいでいらぬ苦労ばかりする李大釗だが、まあ彼は陳独秀のそんなところがいいらしいから無問題。

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 なんとか関所をやり過ごした二人は再び馬車で雪原を進む。その場面がこれ↓

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 なんというロマンス!! 

 白銀の大地を進む馬車、まるで二人きりで世界の果てを目指しているかのよう。いや、彼らは本当に二人で純白の世界の果てに向かっているのだ。どこまでもどこまでも二人だけで白銀の世界を行くのだ、しかもそれがおっさん二人でと言うのがミソだ。間違いなくこれは中国映画史上五本の指に入るロマンチックな場面である(←そうか?)


 しかし、『建党』ではここまで真っ白な世界じゃなかったあげく、なんと途中で黒塗りの自動車が現れ、陳独秀は馬車から車に乗り換えてしまうというロマンぶち壊しな展開に。

 うおおおお、監督!!! あんたはロマンスの何たるかをわかっていない!!。


・孫文

 おもしろいほど存在感が無かった。今年は辛亥革命100周年じゃなかったんですか?





袁世凱

 近年、評価が見直されているらしい袁世凱。まあ、私は別に見直しても見直さなくてもどっちでもいいと言うか、むしろ昨今の「今までの評価を見直す」的うたい文句に食傷気味なのだが。・・・・・・って言うか、「今までと違い、イデオロギーから自由な実証的な歴史研究(人物評価)」って相当に政治的だよね?

 それはともかく、確かに映画の袁世凱はなかなか好意的に描かれていた。少なくとも私利私欲によって革命を簒奪し専制政治を敷こうとした、というふうには描かれていなかったように思える。一応、袁世凱の主観的には国を守るための行為なのね。あと、日本の二十五か条要求に対しても、かなり毅然とした対応をとっている。

 そんな複雑な内面描写と出番の多さもあって、基礎知識無しにこの映画見た人は間違いなく袁世凱の映画かと思うだろう・・・・・・本当にいったいどうなっているんだ?

 このあたりのことは(袁世凱の高評価)を誰か事情に詳しい人に分析してもらいたいところ。「イデオロギー的要素を排した新たな視点」とかいうおためごかし(でなけりゃ頭が悪い)言い方以外でさ。

 

 ちなみに蔡鍔に対しては精神的鬼畜攻め的な面もある上に、彼が自分の手中から逃げる場面とかでは水槽の中の金魚をいたぶったりするシーンがうまい。蔡鍔VS袁世凱の護国戦争ではバックミュージックにいっそサンホラの「恋人を射ち落した日」でも流れてほしいところ。

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やたら微妙な関係だった映画の袁世凱と蔡鍔

 ちなみにまだ見てないが蔡鍔を主人公にしたTVドラマ『護国軍魂』もあり、何でも日本の孫文と合流を目指す蔡鍔に袁世凱が次々と刺客を放つという更なる萌え展開が楽しめるらしい。




・林彪

 「林彪どこ!? 林彪!?」と内心叫びながら映画見てたけど、ついにクレジットでも確認できなかった・・・・・・いや、出ないのは知っていたけどさ。

 でも17歳の鄧小平が出るんだから(しかも新聞読んでるだけなんだから)、13歳の林彪出してくれても良かったとでない? 

 もうそのへんのモブの適当な少年が実は林彪、ということに(私の中で)しようかと思ったが、そもそも林彪@13歳の行動範囲である湖北省武漢が全然出てこなかったし。日本やパリにロケしに行く暇あったら武漢映せよ、初期共産党湖北グループ出せよ、映画スタッフ。・・・・・・いや、待て。5.4時期であれば林彪の兄(従兄)の林育南が医学大学に入るため北京にいたはずだ。いっそのこと、林彪は兄を追ってこっそり北京に来ていた、ということにしよう(私の中で)。

 でも、本当に大画面で13歳(←ポイント)林彪が出てきたら、平静でいられないよ、映画館で叫ぶよ。いくら携帯で話し始めてもOKな中国の映画館でも叫ぶのはまずかろう。

 しかもその13歳の林彪が、弟の共産主義化教育に余念の無い兄によって湖北共産主義グループの会合の雑用係りやらされて(←って中国の伝記に書いてありました)、無愛想な顔でお茶くみとかやっているシーン映った日には卒倒します。そうしたら中国の新聞に「『建党偉業』の上映中に日本人女性倒れる 過呼吸と動悸で」とかいう恥ずかしい記事が載ることになるだろう。

 


 と、いうわけで半分くらい妄想になりましたが、まあ映画も本編には存在しない予告画像とかいっぱいなので、いいでしょう。


 まあ、ここまで楽しんで見た人はあまりいないかもしれませんが、それなりに楽しい映画でしたよ。『建国大業』の時と同様、カメラワークと映像の美しさは一級品で、この美しい映像だけでもそれなりに楽しめます。さらに今回は、登場人物同士が言い争うシーンでは画面が人数分分割されるという、斬新な演出がありました・・・・・・いや、けっこう思いつく人はいそうだが、本当に実行しちゃう人は珍しいだろう・・・・・・

 エンタメ作品として及第点の出来でしょう。少なくとも近年作られた記念映画『開天僻地』『太行山上』『建国大業』などの作品よりは数倍マシです。


 そして、以外におもしろいと言うことはある意味やっかいなことです。「優れたプロパガンダは良質のエンターテイメントである」という意味で。かつてのナチスが目指し、そしてハリウッド映画がすでに半世紀以上実践し成功させてきたもの、またすでに中国のドラマ界でも一定の達成をみているこの法則が、中国映画界でも再び見られるようになった、というわけでしょう。


 最後に、この映画を一緒に見に行った日本人男性(非歴オタ、反共(笑))がなかなか鋭い感想を言っていたので、それを紹介。

「それなりにおもしろくて映画としてなかなかの出来だったけど、毒にも薬にもならない作品だ。共産党も牙を失ってしまったんだな

 いやはや、まったく。「牙を失った共産党」。映画は楽しく美しかったけど、そこには敵に咬みつく牙も刈られても刈られてもなお芽吹く雑草の生命力も無いのだ。

 

 

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